第三十八話 緊急封鎖
庄司は連れ去られ、その場から遠のいていく。
最後に気に留めたことがあった。
警視の姿が遠のいていくが、彼がヘルメットをかぶっていた。
ヘルメットの階級章までは暗記に自信がないが……白い線が三本のマークは、ほぼ見た記憶がない庄司だった。
ぐ……、やはり夢じゃあないのか。
ライブ会場とは違う意味で肝が冷える。
……いや、それよりも、ヘルメット、か。
庄司は理解した。
警視は、知っている……俺よりも。
……そんなこと、当たり前のことだ。
我々がいま、向き合わないといけないのは、災害だという危機意識。
俺は警帽だった。
通常の業務では、なくなっているのだ。
―――――
「警視。 付近のことは、お任せします―――あとは我々がやりますので」
白い服の女が、警視に言葉をかける。
心配せずとも、滞りない。
緊急封鎖のために駆け付けた者たちが動いている。
しかしこの女性。
昼間ならばまだしも、この時間帯では、わずかに存在する半透明素材の目元さえも、見えやしないが……。
「後は頼む。 としか、言いようがないな……しかし、キミたちみたいなのがいるとは、今の部署に来る前は知らなかったよ」
警視は連絡を取り持った程度だった。
実際に現場で行動するのは、専門家に任せることとなる。
完全装備の実行部隊は答えた。
「宣伝にまで予算は回していないので……そういえば、そういう観点で考えたことはありませんでしたね。 上はどこも、削ることしか考えていないので」
女の顔はうかがえないが、苦笑しているのだろうか。
わずかな身体の動きも、ほとんど見えない、そんな装備状態である。
だんだん、宇宙服を着こんでスペースシャトルに乗っている連中に見えてきた警視であった。
「全体整列……と、言いたいところだけれど、もう
締まらないわね。
そうぼやいて、手っ取り早くやるわよ、と呼びかける。
白い服の集団は、何組かに分かれて、ライブ会場に向かった。
出入口をそれぞれ、塞ぐのだろう。
見ている限り、二十名ほどの男が―――いや顔は見えないから女性の可能性もあるか。
削る、削る……強い組織には必要不可欠なことだ。
しかし削りとられながらも、今のこの世界に必要とされている組織は―――新しいものは、生まれてくるのだな。
警視は、夢を見ているように、その背中をただ見つめていた。
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