第11話 不意の訪問者

 アールヴが警備兵から聞いてきた話によると、この辺りは周囲への配慮に気を配りさえすれば基本的に自由にしても良いということだった。


 であるから、もちろん昼飯を食べるくらいであれば大丈夫と言うことなのだろう。

 と言うことで充とアールヴは昼飯に火を使用するつもりなので草むらを少し外れた場所で、万が一に備えて警備隊の見回り領域に入っている場所を選び昼食の準備をしていた。


 「でもよぉ、充。お前、一体どんな考えがあるんだ?」

 「えーっと、それは銀貨を都合する手段ってことですか?」

 「そう!」

 「別にないですよ。ご飯食べたら、あの草摘みしてる人たち一人一人にお金貸してもらえないですかと頼もうかと……」

 「……」

 「どうしました?」


 眉毛にシワを寄せ無言でアールヴが充を見ている。

 その表情は変質者を見つけたというわんばかりの表情だ。


 「お前、アホか……?」


 アールヴは目をつむり首を振って、そう一言だけ発した後、黙ってため息を一つはいた。


 「えっ?何でですか?」

 「お前なー。見ず知らずの身元保証もできない人間にホイホイ金を貸してくれるアホがどこにいんだよ!お前貸すんかぁ?俺なら貸さねぇぞ!あぁん~?」


 アールヴの思いっきり力を込めた言葉に、充は何も言い返すことができなかった。

 

 「いやっ……、まー。確かにそうなんですけどね……。ただ、やれる手段は、やってみた方がいいと思うんですよ。可能性的に0かって言われたら、そうじゃないわけだし……」

 「0かって言われたら0じゃないって、お前よ、そんなのよぉ……って、まーいいわ。夕方まで待ってダメだと思ったら、中入って換金してくるからな」

 「そうですね。とりあえず話もまとまったということで、ご飯の準備しちゃいましょう」


 そして二人は火をおこした後、その回りに蛙の肉と魚を串のような棒に刺して焚き火の周囲に配置していく。


★★★


 [おい、お前が何とかしろよ……]


 アールヴが声を出さずに、充の心の直接伝えてきた。


 (なんで……。ちょっと言いづらいですよ)


 そして彼の問いかけに対して、充も直接言葉に出さずに自分の心から伝える。


 何故こうなったのかと言うと……


 充とアールヴの二人は、細かい口論をしながらではあるが順調に昼飯の準備を進めていた。

 肉や魚を焚き火で炙るところから始めて、それほど多くはないが残った食用の植物を利用して作った即席のサラダなど、その場かぎりとはいえそこそこの昼食の準備をしていた。


 そして肉や魚を始めにこれらの料理は、ある程度の時間がたつと準備万端というばかりに美味しそうな臭いを醸し出していく。


 その臭いを感じとり二人は食べようとしたのだが……


 なぜか、その臭いにつれられたのは彼ら二人だけではなかった。


 [いいからなんか言えよ。お前!]

 「あのー、君……。どうしたの?」

 「……」

 

 若干イラつきながら喋り出すアールヴに戸惑いながら、充は目の前に間違って来てしまったであろう子供に話をかける。

 だが、子供の方は右の人差し指を咥えたまま二人の方を見て何も答えようとしない。

 姿については、パッと見は幼い子供と言う感じなのだが、髪の毛の量が若干多いと言うのだろうか……

 何となく頭全体がモコモコしているような印象を受けるのが少し気になると言えば気になるのだが、総じて言えば可愛らしい見た目だと思う。


 「あのねぇー。お兄さんたち、これからご飯なんだよねぇ~。だから、ごめんね。ちょっと離れてくれると助かるんだけどぉ~」

 「……」


 充は自分の中で最大限にできるであろう笑顔を見せながら子供に接する。

 だが、子供の表情と仕草は一切崩れない。


 [おい、見られながらだと食いづれぇーよ]

 (分かってるよ。でも退いてくれないんですよ)

 [っち、しょーがねぇーなー]


 アールヴは、そう言うと充と子供の間に立ち軽くお辞儀をした。


 「僕は、おじさんと来たんだけど。君は誰と来たの?」


 (ええっ!!!僕??えっー!って言うより何ですか!そのしゃべり方!)

 [うっせーなー。しょーがねーだろ。なんも知らねーやつに対してだと、こう喋るのが一番違和感ねぇーんだよ。いいか。俺はエルフの子供って設定だから、それに合わせろよ]

 (あー、そう言えば門の手続きで銀貨一枚とか言ってましたね。分かりましたけど……エルフって何?そういう感じの説明、受けてないんですけど……それに、おじさんって……、俺まだ二十代なんですけど……)

 「エルフって言うのは……、あーもう!詳しいことは後だ!後だ!」


 と言うやり取りを繰り広げていると、これまで一切の反応を見せていなかった子供が、後ろを向いて指を指した。


 [はい!お前、おじさん確定!]

 (あっ……ちょっと……嘘でしょ……) 


 心の中では、そんな醜い争いを繰り広げながらも、とりあえずは子供が指を指す方向を追ってみる。

 すると一人の女の子が何かを探すようにキョロキョロと辺りを見渡していた。

 年齢の方は定かではないが、どうやら目の前にいる子供よりは歳が上だろう。

 そして顔形が若干似ているような印象があるので恐らくは姉といったところなのではないか。


 充とアールヴはしばらくその女の子を黙ってみていると、その様子に女の子自身も気づいたのだろう。

 走りながら、こちらの方へ近づいてきた。


  近づいてきたのだが……

 何か変だ…


 「どうもすいません。ご迷惑をお掛けしているようで……こら、ルーク!だめじゃないの!勝手にいなくなったりしたら!こんなところで何してるの!さぁ、行くよ!こっち!」


 幼い子供の姉らしき人物は、急いで二人の元へ駆け寄ると、息を整える間もなく二人に謝りながら子供にそういうのだが……

 それよりも、充は目が点になってしまった。


 と言うのも、子供とその女の子は非常に似ている。

 これは遠巻きでも確認できるほどなので、それは間違いがないはずだ。

 間違いないとは思うのだが……

 一点だけ気になるところがあった。


 それと言うのも、その女の子の頭部を見てみると……

 子供と同じようにモコモコしている特徴に加えて、何やら左右に角らしきものが確認できる。

 最初はアクセサリーか何かなのかなと思ってはいた。

 そう思い女の子の謝罪を聞きながら、悪いとは思っていたのだが髪の辺りを注意深く見てもアクセサリーだと思えるようなものが見当たらない。


 彼女の方も不思議に思って見ている充に気づいたのだろう。

 いつのまにやら無言で頭を下げたりしだした。


 (ちょっと……アールヴ、どう言うことだ?)

 [えっ……何が?]

 (彼女、なんか左右に見えるのアクセサリーじゃなくて角っぽく見えるんだけど……)

 [あー、羊人族だからな]

 (羊人族ですか?なんです?それ!)

 [あー、亜人だ]

 (もー、ちゃんと説明してくださいよ!)

 

 失敗はする、説明もしない。

 充は、この行き当たりばったりのアールヴ自称死神のことを本気でどうにかしてやりたくなっていた。

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