第3話 止まらぬ妄想
どのくらい離れているのか正確な距離は定かではないが、遠くの方に水色の斑点が見える。
正確には水色の点が出現しては消えてと言った感じだ。
今のところあれの正体は分からない。
だが先ほどまでいたアールヴの話であれば、どうやらあれはモンスターでこれから戦いをしなければいけないらしい。
最初、充が不思議な光とあったばかりの時、彼の存在を疑っていた。
だが話していき、不思議な現象を一つ二つと重ねるうちに目の前の状況と言うのが、夢や幻の類いではないと思い始めているようだ。
充は無言で周囲を見渡した後で大きなため息を一息ついた。
「今から戦うって言ってもさぁ~……」
一言そう言うと水色の斑点を再び見つめながら、ふと考える
(あれっ……。距離あるし、これ逃げれるんじゃないのか?)
その瞬間、全身に寒気が走った。
[おい!あんま変なこと考えんじゃねーよ。これはあくまでも
「はぁいぁ?いえ、逃げようとかしてませんし、思ってもいませんよ。ただ、距離があるので今のうちに何か他に迎え撃つ準備とかしたいなとか思っていたのですが、それもダメでしょうか?」
身体中に信じられないほどの汗をかきながら、必死に
[俺は変なことしか言ってねーのに、何自分で逃げようととか言ってんだよ。まー取り敢えずは、いっかな。迎え撃つ準備?あれは、それほど強くねーと思うんだけどな……。いいけど、具体的には何すんだ?どんなモンスターと戦うのかも分かってねぇんだろ?]
「はい。ですが、モンスターとは言っても、生き物だとは思いますので、それに合わせた準備と言うのが、それなりにはできるのではないかと思いまして」
[なるほどなー。だったら背中はあまり触るなよ。殺傷能力事態はほとんど無いに等しいから大丈夫だと思うぞ]
「はい、背中ですね。分かりました、ありがとうございます!」
とりあえず、どんなモンスターと戦うのかは充もまだ分からない。
だが、逃げの選択を選ぶことはできないので、とりあえずはアールヴが言う殺傷能力がほとんどないと言う言葉を信じることにした。
「よーし。戦闘か~。どんな感じで進んでいくのかは分からないけど、先ずはやっていくか!」
つい先ほどまで、死のうと思っていた男は、殺されたくはないと決意を込めてモンスターに近づいていく。
そして、近づいていく途中でアールヴが言っていた、背中に触るなと言う意味を考えることにした。
(んーっと、ここは俺の知らない世界で、アールヴがお気に入りとも言っていたな。と言うことは背中に触るなってことも、それに関係することだと思うんだよな~。)
棍棒を振り回しながら水色の物体を見ながら歩くが、彼の視線にはまだ対象の正体と言うのがハッキリと見えていない。
(そーいえばアールヴは、ここの世界のモンスターと言うのは俺のゲームや映画とかの想像で良いって言っていた。ということはだ……ゲームとかでモンスターを倒すと、お金とかが貰えるってのが定番だな。モンスターを倒すと煙とか現れてお金が貰えたり、経験値が貰えてレベルアップとかそんなことから想像していくと……)
すっかりアールヴの前提から己の考えることが脱線していることには全く知るよしもなく、充の妄想は膨らんでいく。
そして、いつの間にやら鼻唄まで聞こえてくる。
(背中を触ると貰えるお金とか経験値が減ったりとかするってことかな?ある一定以上の条件を課すことで取得関係の確率や量が増えるのはRPGとかでもよくあることだよな~。もしかして、これって……正解なんじゃないだろうか?って言うより、それしか考えられないような気がするんだよね)
周囲には充の他に誰もいない。
もはや誰も何も言ってこない状況だけに、彼の勝手な妄想はとどまるところを知らず膨らんでいく一方であった。
もちろん誰もRPGだとは一言も言ってなどいない。
充は妄想を大事に育てながら歩いている。
自分でもそこそこの距離と時間を歩いているのでは、と思いながら彼は再び対戦相手との距離を図ろうと前を向いた。
そうすると距離が先程よりも近づいているからなのだろうか、水色の斑点の見え方が先ほどとは違う印象を受ける。
先ほどまでは見えたり消えたりを繰り返していることで、斑点のように見えたそれなのだが、近づいた今再び確認してみると水色の大きめの丸のような物体が上下に動いているように見える。
彼の目には一定の距離を上に行ったり下に行ったりを繰り返すことで、こちらの方に来ているようだ。
最初は鳥なのかと思ったが、鳥であれば動きがもっと直線的なのではないかと感じ、彼はこの考えを排除する。
一度、分からないと認識したのが災いとなったのだろうか、気がつくと彼は自身がこれから相手にしなければならないものが気になり出していた。
目をそらさないように遠くの物体を見続ける充。
当然、歩きながらなので対象の水色の丸はどんどん大きくなることで、その詳細が彼の目にハッキリと確認できるようなっていく。
そしてモンスターとの距離がある一定のラインまで近くなり、彼の目に何が映っているのかを認識できるようになった頃、彼の顔は青ざめていった。
「おい、おい、おい、ちょっと……誰か嘘だと言ってよ……そんなの無いだろ。聞いてないよ、水色の蛙なんて……」
対戦相手は充が触ることもできないほど嫌いな生物。
蛙だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます