死神と歩く異世界冒険録
tantan
第1話 死神との出会い
「うん!俺やっぱりダメだ…」
充はゆっくりと目を閉じると目の前のロープに両手をかける。
俺は今から死ぬ!
よし!やってやる!と思いながら彼は両手をかけたロープに自分の首を突っ込もうとした瞬間、何かに頭をぶつけ台の上から落ちてしまった。
「いってぇ~。なんだよ…」
充は自分の頭をさすりながら周囲を見渡す。
当然のことだが本気で自殺をしようと考えた場合、直ぐに他人に見つかるような場所を選んだりはしない。
再び彼は周囲を見渡すが、やはり誰もいない。
だが、自分はロープに頭を突っ込んだ瞬間、確かに何かに頭をぶつけた。
あれはなんだったんだろうと思いながら立ち上がってみると……
ロープの周りが光っている?
大きさは直径が30㎝の円と言ったところだろうか、何か不思議な物体と言うか……
物体と言うには良く分からないものに見えるので、存在と言えばいいのか……
なんとも言えないようなものがロープの周囲をくるくる回っている。
外から光が入ってきたのか?
いや、周囲はしっかりとカーテンを閉めて光が入ってこないようにしている。
彼には全く見に覚えがないものだけに首をかしげながら、じっとその円を見つめていると……
[おい、人間!]
どこからともなく声がする…
今、ここには自分しかいないのにどこから?
[おい、ここだ!ここ!]
声の出所がわからずビックリし周囲をキョロキョロしていると、再びどこからか声が聞こえてきた。
[いつまで探してるんだよ!さてはお前バカだろ?前だ!前だっつーの!]
だんだんと声が大きく荒くなる、喋る内容も若干悪くなってきているように思う。
声は前だと言うが……
自分の前を見てもあるのはロープと不思議な光だけだ。
まさか、光が喋るわけないよなーと思いながら指を指してみると……
[そう!そう!それが俺だ!やっと分かったか!阿呆!]
「えっ?光が喋ってんの?何で?」
[別に喋ってるわけじゃねーよ。お前の心に直接伝えてるだけだからよ!ワケわかってねーのは、それだけお前が冷静さを欠いてるってことだっつーの。不思議だと思うなら一度冷静になってみろよ。お前の耳からは俺の声が聞こえてきてねーのが分かるから]
誰もいないと思っていた空間に誰かいると思ったらビックリするのは当たり前だろう?などと心の中で考えるが、それはとりあえず心の中に仕舞った。
そして言われた通りに心を落ち着かせてから見ようと目をつむり静かにする充だが…
静かにしても声がどこから聞こえてくるのか全くわからない。
それもそのはずで、彼が黙ってから光は一切声を出していないからだ。
……
「あのー、何か喋ってくれませんかねー」
[あー、悪い!悪い!しゃべんねーと俺が言ってることが嘘かほんとかわかんねーよな]
「あー、でも今喋ってくれたお陰で何となく、貴方の言っていることがわかりました。確かに冷静になると耳から聞こえてないのが分かりますね。」
[だろぅ?ほんと要領わりーなーお前!あっ、でも心乱すなよ。乱すと、まためんどくせーからな!こっちもさっきお前が心にしまった言葉には突っ込まねーからよ]
その瞬間…
もしかして心読まれているのかと焦る充だったが、とりあえずは深呼吸をしながら心を落ち着かせる。
「はい、分かりました。それで、先ず貴方はどこのどちら様なのでしょうか?」
[よーし。よし!ノロマなりに何とか慣れてきたか?俺は、なー。お前らの世界で言うところの神ってやつだ!別にカツラとかじゃねーからな。神様って言うやつだ]
「はいぃ?神?あのですねー。嘘つくなら、もうちょっとマトモなこといってくださいよ!今時そんなことを言うのって……」
[なんだ?今時そんなのって?おっ?信じらんねーって言うのか?]
「そりゃー、神様って言われて、そんな簡単に信じられるわけないですよね。と言うよりも神様なんているわけないですから」
[はぁー?ここにいるって言ってんだろ!なんだったら証拠見せてやろうか?]
「いえっ…別にそんなの見せてもらわなくてもいいですよ。今さら見せて貰ったところで何ともならないですしね」
[何ともならないってどういうことだよ。って言うか、お前今何しようとしてたんだ?]
「別に何でもいいじゃないですか。そんなの。貴方には関係ないですよ」
[まー、関係ないのは関係ないんだけどな。気になっちまってよ。多分だけどよ、お前。死のうとしてたんだよな?そのロープを使ってよ]
「なんですか分かってるなら聞く必要がないじゃないですか」
ここで充は目の前の光には、もう付き合いきれないと思い辺りに光に繋がる手がかりらしきものがないのか探し始めるのだが全く見つからない。
[おい、人間。別にトリックとかじゃねーからな。ノロマの割りには以外と用心深いなー、お前]
「ノロマと用心深さは全く関係ないですよね?それで、なんですか?」
[あー、そんでなー。お前、なんで死のうとしてんだ?]
「えっ、何でって……そりゃー、色々あったんですよ。」
[色々って、どんな?]
「べっ別に何でもいいでしょ!そんな事、貴方に関係ないですよね。僕の勝手ですよ」
[あー、まー関係ないって言えば確かに関係ないんだ。でもよ、気になるんだよな~]
「なんで気になるんですか?」
[いやー、俺ってよー!神って言っただろ?確かに神なのは嘘ねーんだけど、お前らの世界で言うところの死神ってやつに分類されるんだ。そんで仕事の関係上、死に関する記録を色々と調べてて思ったんだけどよ。自らの意思で死を選ぶって言うのは、お前ら人間、それもこの世界の人間が一番多いんだわ]
(だわ、って……)
[えっ?しょーがねーだろ、つい出ちまったんだから。そんで、最近色々調べてるんだけどよ。お前ら人間が選ぶ死の理由って言うのが、実に下らねーんだ!]
(わ、って付かないんですか……)
[お前が突っ込んできたから付けねーよ。女にフラれたとか、借金作っちまったとか。何かに負けたとか。なんかそんなどーでも言い様な理由ばっかなんだよな。お前も確か女に逃げられたのと会社がコケたとかだろ?]
「あー、はい。まー確かに、そんな感じではありますね。女に逃げられたって正確には婚約者です。何年も付き合ってて、この人と決めてた人なんです。それも、その人が逃げた理由は恐らく僕の勤め先が倒産したことが原因だとは思います」
[まー、細かい理由とかはどうでもいいんだけどよ。とりあえずそんなもんだろ?]
「そんなもんの一言で片付けるんですか……とは言ってもですね、こっちは正直、生きる望みが絶たれたんで、もう死ぬしかないんですよ」
[そこ!そこだよ!なんで働けなくなって、女に逃げられたことと死ぬことが関係あるんだ?]
「働けないとお金稼げないんだから生きていけないですよ」
[それなら、飢え死にするのを待てばいいんじゃねーのか?ってか、その前に流石になんとかなんだろう]
「飢え死にの方が辛いですよ。何とかって、そんないい加減な…」
[飢え死にの方がって、お前飢え死にの経験あんのか?]
「ないですよ……」
[じゃー、なんで辛いとかわかるんだよ。逆にハイになるかもしんねーだろ!それにお前、お金がとか言ってるけど、貯金そこそこあるんだし、その間に何とかなるんじゃねーの]
「貯金そこそこって言ったって……今から別な仕事探せってことですか?まー、確かにそれも選択肢かもしれないんですけど、色々と疲れちゃったんですよ」
何かを捲るような音が聞こえた。
[疲れた?あれ?お前、俺が調べた感じだと26歳ってなってるぞ!]
「そうですけど、それが何か?」
[俺……数えるのめんどくさくなってやめたんだけど、一応この地球よりは前から生きてるぞ。その俺でさえ、生きることに疲れたなんて思ったことねーんだけど、それってどんな感覚だ?]
「えっ……どんなって言われても……こう、何て言えばいいのか……って、なんで僕が貴方に説明しなければいけないんですか?」
[それは、俺が質問したからだろ?当たり前の事聞くなよ!]
「当たり前の事って…別に答える義務とかないですよね」
[なんだよ。ケチクセー事言いやがって教えてくんねーのかよ。後よ、お前は死んでどうするんだ?]
「えっ……死んで?それは……、死んでやり直すんですよ!って、もしかして……自称死神が死んでどうするのって聞いてくるってことは輪廻転生とかってないんですか?」
[自称って言うのは余計だけど、大分信じるようにはなってきたのか?まーとりあえずは……あるよ。あるけどよー。輪廻転生って言うのは、もう一回この世に来ることだぞ。自分で死を選ぶやつが輪廻転生で再び戻ってきたところで、また同じことの繰り返しだろ?]
「いえ、それは分からないと思うんですけど。再び生まれ変わると状況が変わるわけですから」
[状況が変わるってね…弱いヤツはどこまでいっても弱いとは思うよ。体鍛えるのとは訳が違うって]
「確かに体鍛えるのとは違うとは思いますが……って、もしかして死神ってことは色々な人の人生を見てるんですよね。それで、同じとか言ってるんですか?」
[えっ……見てないよ。調べ出したのは最近だし。そういうのは何と無くでいいんだよ]
「何と無くって……いや、絶対ダメですよね」
[良いにきまってんだろ!俺が良いって言ったら良いんだよ!それとも何か?お前が証明してくれるって言うのか?]
「証明?えぇっ?そんなの出来るわけないですよね」
[だろ?だったらお前の負けってことで次のお前の輪廻転生は適当な虫辺りにしておくから宜しくな!]
「えっ……今なんて言いました?」
[ん?どうした?カマキ……あっ……間違えた。み・つ・る・く・ん]
「ちょっと、なんですかカマキって!何を言ってるんですか?貴方は!」
[あー、バレないと思ったんですけどね、バレてしまったんですか。カマキリって言うのは、次のお前ですよ]
「何をサラッと、そんな冗談はやめてください。僕は次も人間に生まれ変わるんですから」
[お前、たかが26年生きただけで疲れるんだろ?それで何で次も人間に生まれ変わるんだよ!こっちも輪廻転生させるのに結構な労力なんだよ。そんでまた20年ちょいでサラッと消えちまったら何にもなんねーんだよ。精一杯生きての20年じゃねーだろ!それならカマキリでいいんだっつーの]
「いや、だから無駄になると決まった訳じゃないですからね。というか次は大丈夫ですから」
[お前、次は大丈夫って……ギャンブルで負けるヤツの常套句じゃねーかよ。そんな口車に乗るわけがねーだろうーがよ。仮にも俺は死を司る死神だぞ!あぁん!もしもどうしても来世も人間になりたいって言うんなら、先ずは証明してみせろや!]
「えっ……でも、証明とは言ってもどうしたらいいんですか?」
[えっ…どうしたらって言ってもな~。明日以降も普通とか言うのも違うよな~]
「はい。来世自分が有意義に生きられるかの証明と言うことであれば、一度自分の人生をリセットさせる必要があると思います」
[一度、お前をリセット?]
「はい」
[だとしたら……お前、異世界に行け!そこで精一杯生きて、俺に証明しろ!]
「えぇぇぇ~、異世界ですか?何故……。それに……それって、どんな世界なんでしょうか?」
[んー、そうだなー。お前、もしもこの世界で生まれ変わった場合、有意義な人生をおくれるんだよな?]
「えーっと、多分ですけど……」
[なんか返事が弱くなってんだけど……。めんどくせーから、今からカマキリでいいか!]
「いえ、全く弱々しくなどありません。必ずや有意義な人生をおくれます!はい。お約束いたします!」
[だよなー。だったら、少なくともこの世界よりはキツい世界って言うのは確定だな~]
充は一瞬、弱気になり下を向いてしまう。
[なんだよ。やっぱり……]
「いえ!そんなことはありません!必ずや期待に応えれますので安心してください」
[よーし!よーし!いい心意気だ。そうだな、それじゃー決まりだな。んじゃー、とっとと始めるか!]
こうして何とも下らない言い合いから充の死神と歩く異世界冒険録はスタートした。
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