#12

どれくらい時が経ったんだろう。

楓達と解散して、それから私は・・・どうしたんだろう。

私はどうして今、裕樹さんの隣で寝てるんだろう。


楓達が二次会に行くと言い出した後、具合が悪いと話した私を裕樹さんが家まで送っていくと言ってくれた。

タクシーに乗って私が口にしたのは近くのホテル名だった。

「杏子さん、家に行くんじゃ・・」

「私ね、彼が居るんだ。実は。」

「え、あ、そうだったんですか・・・」

明らかに落胆した顔になる裕樹さん。

素直な反応に少し笑ってしまう。

今はその素直な反応が嬉しく感じてしまうけど。

「でもね、彼には他にも好きな人が居るの。」

「え?」

「・・・私だけみたい。あの人の事好きなの。」


楓達と店を出ていく時、好孝の目が気になった。

けれど、好孝はいつも私に向けている優しく、愛しそうな眼差しを向かいに座っている女に向けていた。


「バカみたい。何回も何回も裏切られて。

それでも好孝の事信じて、待ち続けて。」

「杏子さん・・・。」

涙がバレないよう俯いたまま話した後、横を向くと、悲しそうな、どうしたら良いか分からないような表情を浮かべた裕樹さんが私を見つめていた。

「・・・お願い。1人にしないで。」

絞り出すように呟くと、私の手を裕樹さんの温かい手がそっと包み込んだ。


携帯がバイブで震える音がする。

横目で無造作に置かれた鞄の中で携帯が光っているのが見えた。

好孝には遅くなるとか、言ってなかったんだっけ。

上手く働かない頭で考えていると後ろから抱き締められた。

「杏子さん、どうしました?」

「え、いや、別に何も・・・・。」

「ずっと携帯鳴ってますよね。出なくていいんですか?」

「・・・・・」

好孝が私を呼んでいる。

返事に躊躇していると急に視界が変わり、裕樹さんと目が合った。

「彼氏さんからでしょ?放っておけばいいんじゃないですか。」

「でも」

「杏子さんを置いて違う女に手を出すような奴、杏子さんにはふさわしくないです。」

「裕樹さん・・・・」

「今は俺だけを見てください。杏子さん。」

そう言うとゆっくり唇が重なり、深いキスに変わった。

頭の中に昨日の好孝と女が楽しそうに話しているのが浮かぶ。

携帯の存在をかき消すように私は裕樹さんの首に腕を回した。


「ありがとう。もうここまででいいよ。」

結局裕樹さんの優しさに甘えて、家の近くまで来てもらった。

「大丈夫ですか?俺も事情説明に行くべきじゃ・・・?」

「ううん。誘ったのは私なんだし。自分でけじめつけなきゃ。」

ありがとうと小さくお辞儀すると、裕樹さんに抱き締められた。

「杏子さん、俺本気です。遊びで終わらせたくないです。」

「裕樹さん・・・・」


「何しとんの?」

急に後ろから聞こえたのは前までずっと恋い焦がれていたあの声。

振り向くと好孝の姿があった。

「電話も寄越さんとなにしとると思ったら・・・・」

好孝は苛立つように近づき、乱暴に私の腕を掴んだ。

「とりあえず、帰るぞ。」

「うん・・・」

「待ってください!杏子さんは何も悪くないです。」

裕樹さんが私のもう片方の腕を取り、真剣な眼差しで言った。

「離せや。杏子は俺の女や。」

「嫌です。あなたは杏子さんにどれだけ辛い思いさせたと思ってるんですか?」

「少なくともお前よりは杏子の事知っとると思うけどな。いい加減その手離せや。」

「俺の方が杏子さんの事大切に出来ると思うんですけど。」

「お前調子にのんなや?」

好孝が裕樹さんの胸ぐらを掴んだ時だった。

「もうやめて!」

生まれて初めてくらいの大声が私の口から出た。

「杏子・・・?」

「私が誘ったの。私が裕樹さんをホテルに連れていったの。」

「そんな、冗談やろ?杏子がそんな事・・・」

「こんなこと、冗談で言えないよ。」

「杏子・・・・」


好孝の顔が引きつって行くのが分かる。

私はただ真っ直ぐ、好孝を見つめていた。


ねぇ、何でこんな風になっちゃったんだろうね。

私はただ、好孝に愛されるだけで幸せだったのに。


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