#11
「ただいまー。」
「・・・・おかえり。」
「今日は2件はしごしてきたわー。受験シーズンやわ。」
「ねえ、好孝・・・」
「ん、どないしたん?」
「・・・・・なんでもない。ご飯温めてくるね。」
好孝の上着を受けとり、ハンガーにかけた。
美加の時とは違う香水の香り。
次はどんな女と一緒なの?
何度も、何度も思っては心の奥に閉まった。
「合コン?」
「そう!杏子彼氏が居るの知ってるんだけどさー、どうしても人数足りなくて。明日なんだけど・・・・」
同僚の楓にランチに誘われ、突然の合コンの誘い。
少し驚いたけれど、乗り気になってる自分もいた。
「この通り!飲み代もちょっぴり出してもらうだけでいいから!」
「出してもらう気満々じゃない。」
「あ、バレた?」
「・・・・まあ、いいよ。適当に言っておく。」
「本当ー!?助かったあー、いっぱい飲もうね!」
「出会い目的じゃないの?」
好孝に悪い気持ちはあったものの、楓の嬉しそうな表情に誘いを承諾して良かったと思った。
好孝も良い思いしてるんだもん。私も少し位良いよね。
そう言い聞かせて、私は残りのランチを楽しんだ。
あっという間に合コン当日。
好孝には同僚と飲むと伝えたら二つ返事でOKが出た。
「たまには羽伸ばして来いや。飲み過ぎには気いつけてな。」
優しく微笑む好孝が、私にとって何か違和感を覚えた。
「杏子ー!」
駅前で私を見つけたのか楓が手を振っている。
私も手を振って応えた。
楓の大学時代の女友達と、その友達の男友達3人との合コン。
ノリも良く、こんな私でも温かく受け入れてくれた。
「警官て大変でしょ?」
「いやいや、市民の平和を守る為だから!」
「なんかうさんくさーい。」
「なんでだよ!」
わいわいと楽しそうに話している楓達を見ていると、こっちも楽しくなる。
気晴らしに来て良かった。そう思いお酒を飲んでいた。
すると、隣に1人の男が声をかけてきた。
「お酒、足りてますか?」
「大丈夫です。ありがとうございます。」
「1人で飲まれていたので、楽しんでるかなと思って。」
「ごめんなさい。気を使ってもらって。」
「そんな、俺は別に・・・・でも、そう言ってもらえて良かったです。」
この人、裕樹さんって言ってたっけ。
警官らしいしっかりとした体つきで、爽やかな印象に見えた。
「杏子さん同い年でしたよね?少し大人っぽいなと思って。」
「そんな事ないです。周りからはよく地味とか、暗いとか言われてたので。」
「そんな事ないです!俺は杏子さん、素敵だと思います。」
「え?」
俯いていた顔を上げる。
少しお酒で赤くなっているけど、真剣な瞳がこちらを見つめていた。
裕樹さんの真剣な眼差しに、目が反らせない。
「杏子さんの事、もっと知りたいです。」
「裕樹さん・・・。」
私の手に裕樹さんの手が重なりかけた時、目線の先に見慣れた姿が見えた。
なんで、なんでよりによってここなの?
「杏子さん?」
心配そうに声をかける裕樹さんの声が遠退いていく。
目線の先には私より明るそうで、甘い香りが漂いそうな女と楽しそうに店に入ってくる好孝の姿があった。
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