#6

「豪くん・・・・ありがとう。」

「杏子、それじゃあ」

「ごめん。今はまだ・・・・。」

「・・・・・・そう、だよな。ごめん。

困らせるような事言って。」

躊躇いながらも私を抱き締めた手をほどいた。

「でも、すごく嬉しかったよ。」

「杏子・・・・本当、優しすぎるよ、お前は。」

でも、と豪くんがまた私を引き寄せ、おでこ同士をくっつけた。

「豪くん?」

「俺、諦めた訳じゃないから。絶対に俺の方が杏子幸せに出来るって思ってる。」

「・・・・・ありがとう。」

「とりあえず食べよう。冷めたら美味しくない。」

「うん。」

豪くんの優しさに助けられ、私は少し焦げた目玉焼きを頬張った。


「本当に1人で帰って大丈夫か?」

「大丈夫。そんなに豪くんに甘えたらバチが当たっちゃう。」

「そんなの、俺が跳ね飛ばしてやる!」

豪くんが握りこぶしを掲げ、自慢気に言った。

「ふふっ、なんか豪くんなら跳ね飛ばせそう。」

「やっと笑えたな。ちゃんと。 」

「・・・ありがとう。」

豪くんに微笑みかけ、じゃあと振り返った時だった。


「好孝・・・?」

そこには、怪訝な顔をした好孝が立っていた。

「会社の人に聞いて、手当たり次第同期の家探したんやけど、ここやったか。」

ずんずんと近付いた好孝は豪くんの前に立った。

「人の女泊まらせて、どんな気分や。」

「好孝違うの。私が具合悪くなってたまたま」

「彼女を泣かせるなんて、人として、男として恥ずべき事じゃないか?」

「豪くん・・・・。」

豪くんの言葉を聞いて、好孝は少し驚いた顔をして私を見た。


「杏子、お前・・・・・」

「・・・・美加と、会ってるんでしょ?」

「!・・・そ、それは。」

気まずそうに俯く好孝。

嘘でも否定して欲しかった。

でも、嘘つけないの好孝らしい。

でもね・・・・傷付くのは変わらないんだよ?


「・・・・いつから美加と?」

「杏子、これには訳があって」

顔を上げ私の肩を掴もうとした時、豪くんが私の肩を引き寄せた。

「汚い手で杏子に触れるな。」

「豪くん。」

「・・・お前は関係ないやろ。これは2人の問題や。」

「俺は、あんたより杏子を幸せに出来ると思ってる。」

「何言っとんや?杏子は俺の彼女や。」

「じゃあなんで杏子以外の女性と会う必要がある?」

「そ、それは・・・」

「言えないじゃないか。所詮そんなものだろ。」

「やめて!」

急に声を荒げた私を2人が驚いた顔で見つめた。


「私は、好孝の話をちゃんと聞きたい。」

じっと好孝の方を見つめた。

「豪くん、ありがとう。とりあえず私、帰るね。また月曜日、会社で。」

「・・・分かった。」

私の声に豪くんは少し躊躇いながらも頷いた。

「・・・・帰ろう、好孝。」

「ああ・・・。」

私は覚悟を決めたように、好孝の隣を歩き始めた。

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