#3

「おやすみ、杏子。」

「おやすみ。」

大好きな好孝のご飯を食べて、大好きな好孝の隣で眠りに就く。

ただそれだけで充分に幸せだったのに。

人はなんでこんなに貪欲なのだろう。


「ねぇ、好孝。」

「何や、寝れんの?」

「ううん、別に・・・・私の事、好き?」

「急にどうしたんや。好きやで。」

「誰よりも?」

「誰って杏子以外に誰に好き言うねん。」

そう言って好孝は私を黙らせるように抱き締めた。

前は抱き締められるだけで安心出来たのに。

あの一回の着信画面を見ただけで、不安になってしまう。

好孝は私の事を愛してくれている。

それは真実のはずなのに。

「私も好きだよ。」

「急に可愛い事言うて。明日雨でも降るんか?」

「ひどい・・・・」

「んなの、冗談やって。なあ・・・杏子。」

ゆっくり好孝との距離が近付く。

キスされる。

そう思った時、好孝の電話が鳴った。

「・・・・ちょっとごめん。」

軽くおでこにキスをして、好孝はベッドを抜け出しベランダに向かった。


ねえ、好孝。

最近ベランダで電話する事多くなったね。

前はベッドでも気にしないで電話してたのに。

私に聞かれちゃ困るから?

その電話、私より大事なの?


「ごめん!仕事場からやった。」

何事もなかったかのように好孝はベッドに戻ってきた。

「そうなんだ。」

「なんか明日行く予定だったアルバイトが行けなくなったからお願いしますやって。

明日せっかく休み取ったのに、夕方から行かなくちゃあかんくなった。」

「大変だね・・・」

「でも、明日の夕方までは時間たっぷりあるから、なあ。」

優しく抱き締められ、頭を撫でられ、キスをする。

「愛してる、杏子。」

「好孝・・・・・好きだよ。」

不安を掻き消すように、私は好孝に身を委ねた。


「好孝シャワー空いた・・・・って、寝てる。」

事が済み、先にシャワーを浴び終えて戻ると好孝が先に寝ていた。

起こさないようにベッドに入り、眠っている好孝の頬を撫でる。

純粋な寝顔・・・・そこには私が好きになった優しい寝顔の好孝がいた。

あの時見たのは、きっと気のせい。

きっと私が見た幻だったんだ。

そう思い込もうとした時だった。


「美加・・・・」

純粋な寝顔から聞こえた悪魔の寝言。


神様なんでこんなに私を苦しめるのですか。

私は何ももう知りたくありません。

なんで好孝の口から私の友人の名前が零れるのですか?

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