#2

「杏子ちゃん!コピーの部数間違えてるわよ!」

「すみません・・・。」

最近本当にツいてない。事務のお局おばさんに怒られるの今日何回目だろう。

もう考えるのもやめた。


好孝が浮気をしていると知って数ヶ月。

特に好孝が会ってくれないという訳でもない。でも明らかに私に向いていた好意が前よりも少なくなった。

紛らす為に昼ごはんに買った大好きなパスタも、美味しく感じない。

「もう終わりかな・・・・」

「何が終わりなんだ?」

呟いた言葉に返事があった方向を向くと、1人の男が立っていた。

「豪くん。」

「今日もお局にしこたま怒られてたな。大丈夫か?」

何気なく隣に座ってきたのは同期の豪くん。

私の働いている建設会社の期待されている社員。

「私のミスだから。大丈夫だよ。」

「でも間違えた部数教えてたのお局だろ?もっと反論しても良いのに。」

「確認しなかったのは私だし。ありがとう気を使ってくれて。」

私の返事に豪くんがため息をついた。

「本当・・・杏子は真面目というか、何と言うか・・・・。何かあれば言えよ。」

「流石、期待のエースだね。」

「普通に仕事してるだけだよ。」

いつもの笑みを浮かべていた豪くんが急に真面目な顔で私を見つめた。

「・・・・豪くん?」

「最近、浮かない顔してないか?いつもより元気ないように見える。」

「そ、そうかな。そんな事ないけど。」

「ならいいんだけど。そうだ。

今日一緒に飯でも食べに行くか。」

「え、いいの?」


豪くんからの誘いは正直嬉しかった。

今朝好孝から「今日は遅くなるからご飯は済ませる」と言われていたからだ。

何の用事かは聞けなかった。

きっとその浮気相手と、と考えてしまいそうだったから。

気分転換は大事だと自分に思い込ませ、返事をしようとした時、携帯が鳴った。

「あ・・・・」


画面には好孝の文字。

"今日意外と早く帰れそうや。ご飯作ってまってる。"


「・・・・・」

用事、無くなったの?

誰との約束?

・・・・・会えなくなったから仕方なく私?

自分に自信のない私がどんどん私を追い詰める。


「杏子!」

豪くんの低い声が私の心を貫いた。

「ご、ごめんね。やっぱり今日は用事あったの忘れてた。また今度誘って。」

誤魔化すように昼食を片付け、戻ろうと立ち上がろうとした時だった。

豪くんの手が、強く私の手を握った。

「杏子、まだあいつと付き合っているのか?」

「・・・・・」

「俺は杏子が悲しい思いをしてほしくない。だから」

「大丈夫。大丈夫だから。心配してくれてありがとう。」

豪くんの言葉を遮るように振り向き、精一杯の笑顔を見せ、手を離した。


心配してくれてありがとう。

こんな私を見てくれてありがとう。

でも、私まだこの夢から醒めたくないの。

私は好孝に"ありがとう。早めに帰ります。"と返信を送った。






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