第39話

ふと冷静になって今のニュースから、主犯格が女子中学生だとわかったというだけで、まだ真知子は捕まっていないことに気づいた。


達也や信二の安否はわからないが一緒に行動してるはずだから、まだ大丈夫なんじゃないかと考え、きっとヒカルも大丈夫だと思った。


なぜなら『大人が協力している』ことがわかりながら発表の中に実名報道はない。


少しだけ安堵した。


もう一度ニュースが現場の様子を映す。 


さっきはテレビをつけたばかりでアナウンサーの言葉に気を取られていたが、映し出されている映像をよく見ると廃工場のようなところの小さな窓の付近を中心に映されていて、その周りを何十台もの警察車両と機動隊、警官が取り囲んでいる。


そして時折拡声器を使って警察が、ドラマのように


「もう、君たちは完全に包囲されている。

諦めて投降しなさい」


と説得する声が報道されている。


「ここで警察が包囲した直後、犯人グループの一部が工場の外階段の踊り場に出てきて犯行声明を読み上げた場面がありますので、VTRをご覧ください」


画面には、工場の二階辺りの踊り場に三人の人物が出てきて整列するところが映し出されていた。


VTRだったので、すでに顔には未成年のためモザイク処理されていたが、ネットには顔が写った画像が流出していた。


かなり遠目なのではっきりとした顔の表情はわからないが、明らかに真知子と信二、そして達也だった。


声も小さいためか、テロップが出る。 


「私たちの要求は、お伝えしたように少年院や鑑別所に収監されている者たちの解放です。

私たちが都市部の機能をマヒさせたことで、多くの被害や損害が出たことでしょう。

しかし、これは序章に過ぎません。

私たちの組織は日本中に広がっています。

今私たちが倒れても、次の部隊が東京だけでなくあらゆる都市や街を破壊します。

しかし、少年たちを解放しさえすれば、私たちは黙って投降します。

時間は明日の朝までです。

政府の皆さんはよく考えて結論を出してください」


そう言い終わると真知子たちは再び工場の中に消えた。

その後アナウンサーはまた、自称知識人に今の声明の感想を聞く。


「全く稚拙ちせつで話にならない。

警察はすぐにでも踏み込むべきだ」

と笑いながら話している。


『稚拙なのは、おまえだ』


心の中でつぶやく、そして稚拙なのはこのクソ評論家だけでなく、自分も含めた大人たち全部かもしれないと自らを責めた。


テレビでずっと報道はされていたが、事態は動くことなく夜を迎えた。 


いったい真知子たちは、あんな廃屋の工場でどうしているのだろう。


春とはいえ、まだ、夜は冷える。

食べ物はあるのだろうか。

考えながら、まるで親のように心配している自分に気づき苦笑した。


すでに0時を回ったが、まだ、テレビの生中継は続けられていた。


真っ暗なはずの工場は警察が用意した投光器とうこうきで照らされそこだけが真昼のように明るい。


何か動きがあるのではないかと気が気でなく、トイレに行くことすら躊躇ちゅうちょした。


出来るだけ我慢して素早く用を足すと再びテレビの前のソファに陣取った。


そんなに急展開が起こるわけはないとわかっていながら、画面から目を離せず飲み物を用意する。


お茶をすすったあと、ふと、真知子やヒカルはこんな温かいお茶すら飲めないのだと思いコトリと湯呑みを置いた。


義理立てする話ではないことは重々わかっていたが、そうせずにはいられなかった。


午前3時、未だなんの動きもなく、テレビもアナウンサーをやすませるためか、

『動きがあり次第音声を再開します』

とテロップを出して無音で画面だけを映していた。

流石に音がないと集中力も続かず、少しうとうとして眠りに誘われていった。


「ドーン!」


突然の音声に驚いて目を覚ます。


「今、動きが、ありました。警察が入り口を爆破して突入を試みたようです!」


とアナウンサーが言った瞬間

画面が真っ白になった。

コンマ数秒遅れて物凄い爆発音がテレビから流れた。


おそらく同じマンションの住人たちも同じ番組を見ていたのだろう、今の爆音で悲鳴をあげる声があちこちから聞こえた。


白い煙はなかなか晴れないが、爆発音が収まってアナウンサーが状況を説明しだした。


「まだ、詳細は不明ですが、警察が強行突破を試みて入り口のドアを爆破して侵入をした直後、建物内部が爆発を起こし、警察官に多数の怪我人が出ている模様です。

これはおそらく犯人グループはもう逃げられないと覚悟して自爆をしたものと思われます」


画面では白い煙が黒い煙に変わり、赤い炎が建物から吹き出しているのがわかる。


「真知子、ヒカル……」


警察車両と入れ替わるように消防車が集まり消火活動を始めた。


現場の混乱が画面から見て取れるが、警察は火災のため建物からは退避したようだ。

多くの警官が建物から出てきて、代わりに消防隊員が建物に入っていた。


瞬く間に火は燃え広がり廃屋の工場の屋根が崩れ落ちた。 


消防団員たちも中から人を救出するのは諦めたようで、外からの放水の量を増やしていた。


真っ赤に燃え上がる炎が真知子たちの怒りを表しているように見えた。


建物が轟音ごうおんと共に完全に崩壊した。




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