第38話
気がつくと既に陽は落ち、部屋の中は薄暗く少し肌寒さを感じた。
「ヒカル……」
先程起こったことが、改めて現実だと言うことを思い知った。
街に出ると、やはり事態は悪い方に動いているようで、繁華街に近づくにつれ人々が溢れ、何をしたら良いかわからない状況の中、緊急車両のサイレンだけがあちらこちらで
電力が断たれた大都会はこれほど
朦朧とした意識の中、どれくらいの時間、街を
ドアを開ける。
暗く温もりもない部屋。
わずかな月明かりが窓から差し込み、棚に飾られた深雪の写真が照らされていた。
心なしかその写真の深雪の笑顔が寂しそうに見えた。
僕の目に一筋涙が流れた。
「えっ?」
別に悲しみの感情を抱いている意識はなかった。
何の涙なのか。
『無力』
無意識の中心にその言葉が浮かんだ。
ベッドに倒れこむ。
しばらくうつ伏せで顔も枕に沈め、息を止める。
1分。
息苦しさを感じ、仰向けに向き直る。
わずかに充電が残ったスマホを見る。
政府からの「緊急メール」が何通か入っていた。
しかし、僕はそのメールを開くことなく静かに目を閉じた。
翌朝、陽の光で目が醒める。
スマホはまだ生きていて時間は七時を回ったところだった。
昨夜入っていた政府からのメールの列がかなりの数に増えていた。
流石に何かあったようだと思いメールを開く。
最新のメールに書かれていた文字を読む。
『犯人グループのアジトを突き止め、すでに警察が包囲、犯人グループへ投降を呼びかけているが、全く応じる気配はない』
とニュースを伝え、楽観は出来ないがこれ以上混乱した状況にはならないだろう、という政府見解が述べられていた。
「真知子、達也……ヒカル……」
一列前のメールに目をやると都内の停電解消の知らせが入っていた。
急いでテレビをつける。
どの局もほぼ同じ映像が流れていた。
「先程もお伝えしましたが、犯人グループは中学生を中心に一部小学生もいる少年少女の一団で、その何名かを警察は既に確保して、事情を聞いているとのことで、その一部が報道にも発表がされました」
捕まった中に真知子たちが入っているのか、ヒカルも入っているのか、気持ちがざわついた。
「それによると、先程もお伝えした通り犯人グループが少年少女であること、その主犯は女子中学生であること、中には小学生もいること、そして何人かの大人が協力をしていることなどが、明らかにされました」
そのあとアナウンサーはスタジオにいる教育の専門家という初老の男にこの事件の背景について尋ね、その専門家は“教育のゆがみ”であるとか、少年たちは間違いに気づかず“衝動的に行動してる”とか、勝手な自論を展開していた。
アナウンサーも頷きながら
教育改革を進めている昨今の風潮を取り上げ、今までの知識偏重の教育が考えない子どもを生み、このような結果を招いたのではないか、と教育専門家に呼応し、専門家もまた
「これからの教育は自分で考え行動することを子どもの頃から徹底していくので、このような馬鹿げた犯罪に走る子どもはいなくなる」などと
このやり取りには胸焼けを感じた。
『こいつら、全く何もわかっていない。
真知子ほど考えて自ら行動している子どもはいない。
達也は自分を犠牲にして未来の子どもたちのために、と言って死を覚悟して行動した。
そんなことを何も知らない想像力の乏しい大人たちが、わかった風な口をきくな!』
思わずテーブルを叩いていた。
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