第30話


「へぇ、松木さんそういうお仕事だったんですね。昨日は私のことばかり話していて全然松木さんのこと聞いてなかったですね。

ごめんなさい」


本当にすまなさそうに言うヒカルに


「あー、全然気にしてないよ。

むしろ僕がヒカルちゃんのこといろいろ聞きたかったから」


「え?」

「あ、あぁ、いや、そのヒカルちゃんのこと興味があったから」


「本当に?」

「え、あ、うん」


「うれしいです。

私、人に興味を持ってもらえるなんてなかったから」


「え、そんなことないでしょ。こんなにかわいくて魅力的なのに」

「え?」


そういうとヒカルの透き通るような白い肌が一瞬にして真っ赤に染まった。


「めちゃくちゃはずかしいです。私魅力的なんて言われたの生まれてはじめてです。

嘘でもうれしいです」

「嘘なもんか、本気で思わないことは言わないよ」


上目づかいに僕の顔を見ているヒカルの表情が、またたまらなくいとおしく感じた。


その後、すっかり心を許してくれたのか、ヒカルは昨日以上に自分のことや夢のことなど、生き生きとしゃべった。

時間はあっという間に過ぎ、十二時を回ろうとしていた。


「あ、まずい。終電、そろそろ出ないと」


腕時計を見ながら言った。


「あ、ごめんなさい。ずっとおしゃべりしてて、気づかなくて」

「あ、ヒカルちゃんのせいじゃないよ。僕がうっかりしていたから」


「今、お会計しますね」


そういうとヒカルは、あわててカウンターの奥に入っていった。

急ぎ計算書を持ってきて、金額を告げ、金銭を受け取るとまた慌てて、店の奥に入っていった。

その時の慌てた表情や仕草、店の奥に向かう後姿ではミニスカートからあらわになったスレンダーな足と小ぶりだがキュッと上がったヒップライン、それに続く引き締まったウエストまでを舐めあげるようにして見ている自分に気づき、心の中で男の部分がうずいているのを感じていた。


「お待たせしました。おつりです」

「あ、あぁ、うん、ありがとう」


一瞬意識を内向させていた時に不意を突かれた感じになった。


ふと腕時計を見ると、十二時を過ぎていた。


「間に合いますか?」

「微妙、でも一応駅に向かってみるよ。ありがとう」


「本当にごめんなさい。

気を付けて帰ってください。

あ、もし、終電間に合わなかったらメールください」

「メール?」


「はい、とにかく間に合ったかどうか連絡ください」

「連絡ね。了解、ありがとう。じゃあ」


「ぜったいですよ。

連絡。

待ってますから」


そうヒカルが言うのをしり目に急ぎ店を出た。


駅まではおよそ五〇〇メートル、走れば間に合うかもしれない。

店を出た先から走り出したが、やはり酒が入っていたこともあり、すぐに気分が悪くなり走ることが出来なくなった。


「日ごろの運動不足……後悔先に立たず、か」


はぁはぁと息を切らして止まってしまった自分のふがいなさに腹が立ったが、どうすることもできない。


結局駅に着いた時にはとっくに終電が出ていた。


仕方なくタクシーで帰ろうと思ったが見るとすでにタクシー乗り場には行列ができ、並んでもおそらく1時間では済まなそうだった。


途方に暮れていると、ふとヒカルの言葉を思い出した。


『ぜったいですよ。

連絡。

待ってますから』


素直にメールを入れてみた。

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