第27話


「ヒカルちゃん彼氏とかいるの?」

「彼氏ですか、一応います」


ちょっと気が抜けた。


「でも……最近、何か疎遠になってるんですよ」


心の中で少し期待が膨らんだ。


「疎遠って?」

「会う時間も少なくなってるし、それに、前より……あっ、なんでもないです」


「ん?何々?言いかけてやめるのはよくないよ。おじさんに相談してごらん」


そういった後、我ながらオヤジ丸出しの情けなさを感じたが、この場にはふさわしい台詞せりふのような気がした。


「えっ、あー。恥ずかしいんですけど、その、あまり触れ合いがないんです」

「ほほー、つまり、エッチの回数が減ってるってことかな」


ヒカルはうつむいて恥ずかしそうにうなずくだけだった。

いまどき二十歳の娘がこんな会話くらいで恥ずかしがる方がまれだ。


本当にこのコは純粋なんだろうと思った。

それとも演じているだけなのか?

それなら逆に相当やるコだ。

でも、そんな雰囲気は全く感じられなかった。

確かにこのコはイマドキにはいない、ウブなコなのかもしれない。


「彼氏のことは愛しているの?」

「それは!もちろん」


「ふーん、いくつなの彼氏は?」

「え、歳ですか?二十一です。」


「一コ上か、どうやって知り合ったの?まさか客じゃないよね。」

「えっ、あっ、はい、お客さんじゃないです。えっと、所謂いわゆるネットで知り合いました。

あ、でも、出会い系とかじゃないですよ。

音楽が趣味のひとが集まる掲示板があって、そこで投稿してて、意見交換とかするようになって、気が合ったから、会うことになって……」


正直僕には出会い系とどう違うのかよくわからなかったが、その話にはやはりイマドキを感じさせた。


「へぇ、そんな出会いもあるんだね。

おじさんにはわからない世界だ」

「クスッ」


ヒカルが初めて笑った。

こんなオヤジギャグで笑うとは思わなかった。


「おやおや、こんなオヤジギャグで笑ったね」

「あたし、オヤジギャグ好きなんです。自分でもガビーンっとか言っちゃうし」


「あはは、ガビーンは完全死語だよね」

「あっ、あたし死語クラブなんです」


「なんだいその『死語クラブ』って?サークル?」

「はい、部員はあたし一人なんですけど」


久しぶりに大声を出して笑った。

その感覚がおかしかった。


「死語クラブかぁ、おじさんも入れてくれる?」

「あっいいですよ。でも、会費高いですよ」


「いくらなの?」

「そうですね。あーでも今度ドラム教えてくれたら、会費タダにしてあげます」


にっこり笑ってそういったヒカルの顔がたまらなく愛らしかった。

本当にこんな感情は久しぶりだった。

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