第20話


「この携帯は深雪さんのものですよね?」


ようやく僕にわざわざ会社を休ませてまで呼ばれた意味が理解できた。


「もう少し見せてもらってもいいですか?もう、使えないんですか?」


確かに深雪が持っていた機種に似ていたが、確証が持てなかったため、尋ねると


「残念ながら破損していて、教わった深雪さんの電話番号もかけてみたんですが、鳴りませんでした」

「そうですか、裏っ返してもらっていいですか?」


部下の刑事が白手をつけてビニール袋ごと携帯を持ち上げた。


裏を見ても別に名前が書いてあるわけではないのだが、ちゃんと見なくちゃいけないと思い、そのようなことを言ってしまった。


「どうですか?深雪さんのですよね」


すでに笹本刑事の口調は尋問になっていた。


「えっと……外見だけでは何とも……」

「違うんですか?」


かなり焦りが見えている。

完全に尋問だ。

そのときあることに気づいた。


「そうだ。すみません。

それは袋から出すわけにはいきませんか?」

「何かわかるんですか?袋から出せば?」


先ほどとは目の色まで変わっている気がした。


「えぇ、それを、後ろの電池パックを外してもらえませんか?」

「電池パック?」


「はい、深雪のならそこを見るとわかるかもしれないんです」


少し勿体をつけるように僕は言った。


「何がわかるんです?言ってください!」


明らかに焦っている。

しかし、そのことについて、ちょっと口に出すことに抵抗があった僕はもう一度


「電池パック外せませんか?」


と申し訳なさそうに言ってみた。


笹本刑事も業を煮やしたようで、部下に指示して、ビニールから携帯を取り出し、白手のまま裏の電池パックを外そうとした。


しかし、白手がつめを立てるのを邪魔してうまく外れないようだ。

瞬間、笹本刑事が部下から携帯を奪い取って、素手で電池パックを引っかくようにつめを立てて外した。


証拠品としてビニールにまで入れていたのが、何のためだったのか疑問を感じたが、それほど「証拠」がほしかったのだろう。


「あっ!これですね。間違いありませんね。深雪さんのですね!」


まさに鬼の首をとったように笹本刑事は大声で僕に尋ねた。


「はい、間違いありません。

深雪の携帯です」


僕はそういって少しうつむいてわざとその『携帯の中身』を見ないようにした。


「わかりました。ご協力感謝します」


というと、部下に指示を出しその携帯を再びビニールに入れて、持っていかせた。


「大変お手数でした。

私も次の仕事があるんで、これで失礼します。先ほど案内したものにタクシーを呼ばせますから下でお待ちいただき、タクシーに乗ってお帰りください。

あっそれとマスコミにくれぐれも……」


そういい残して笹本刑事も会議室を後にした。


一人置いてけぼりを食った僕は、しばらく、ぼーっと会議室に残っていたが、スッと自分の目に涙が浮かんでいるのを感じて、我に返った。

そして、僕も会議室を後にした。


携帯の電池パックの裏には、深雪と二人で撮ったプリントシールが貼ってあった。


そこだけは色褪せていなかったのを見て、忘れていた感情を思い出したらしい。


深雪への愛情が残っていたことを自覚できて、少しだけホッとした。

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