第19話

警察には案の定マスコミが群がっていた。

僕がタクシーを降りると一斉にこちらに向って記者、カメラマン、テレビのキャスターのような人物が群がってきた。


まるで僕が犯人になった気分だった。

周りから何か言っているが一切聞く耳を持たず群集を掻き分け警察署の中に入った。

さすがに警察署内にはマスコミも立ち入れないようだ。


笹本刑事に言われたとおり、署内の係りの人に声を掛けると、そのまま以前通された会議室に案内された。

そこでしばらく待っていると笹本刑事が部下を連れて入ってきた。


「松木さん、すみません、急なことだったんで、無礼をお許しください」

「いいえ」


かえって恐縮した。


「マスコミの方は大丈夫でしたか?」


僕の心配というよりも何か答えてないかを確かめるような口調だった。


「はい、一切黙って署内にはいりましたから」


その言葉を聞いてホッとしたような表情を浮かべ


「そうですか、あいつらは味方にもなりますが、敵になることのほうが多い連中ですからね。

気をつけてください」


『味方にもなることなんてあるのか』

と思いながら

「はぁ」

と答えるしかなかった。


「ところでさっきお話したように犯人は十ニ歳の中学生の少年なんです。

だから、松木さんが犯人に会いたいと思っても一切会うことはもちろん、裁判さえも出ることは叶いません。

少年法の改正はご存知でしょうが、それも適応されるのは十四歳以上ですから、十二歳は適用外です。

その辺のところを……もちろんお気持ちはお察ししますが、こちらとしては家庭裁判所の裁定に従うしかありませんので。

お気持ちをしっかり持ってください」


本当なら、その『犯人』である『少年』を「殺してやりたい」と考えるのが自然なのだが、何故かその場ではその少年を殺したいどころか、会いたいとも思わなかった。

そして、なぜか達也の顔が浮かんだ。


「深雪の両親、いや、真壁さんにはご連絡したのですか?」


僕が尋ねると


「はい、先ほどお電話でお伝えしました。

電話口でお父様が泣き崩れていらっしゃいました。

どうして、犯人なのにこちらの手で裁けないのか、極刑にしてしかるべき。っと」


両親からすれば最もな話だ。

僕にはなぜ同じような気持ちが湧いてこないのか、深雪への愛情が薄れてしまったのか、いや、そうではない。

やはり、「あの日」の少年たちとの出会いが今の気持ちの押さえにつながっているようだ。


「で、僕を呼んだのは、何か他に理由があるんですよね?」


犯人逮捕のことなら電話だけでも十分なはずだから、わざわざ呼び出しはすまい。


「えぇ、実は犯人である少年は色々と意味不明なことを言っていて、つまり、心神耗弱状態っていうのか、自白が取れていないんです。つまり状況証拠はそろっているのですが、動機も不明ですし、もう少し周りを固めないと……。

そこで、物的証拠を揃えたいと思いまして……」


そういって部下の刑事に目配せすると、なにやら箱のようなものを取り出して開いた。


その中には薄汚れて、少し破損した携帯電話がビニールの袋に入れられていた。

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