第17話
「えっと、もう少し私たちの組織のことを話しますね」
そこまでいうと急にさっきの背の高い少年が
「真智子、こいつにそこまで話す必要はないぜ、信用できねえよ」
といって
しばらく、考えていた『真智子』という少女は
「いいえ、この方はきっと私たちのことを理解してくれるような気がするわ。達也が連れてきた人ですから。
あの子の見る目は確かだから。信用しましょう」
「でも……」
「いい、リーダーは私よ、私の決定だから、信二も従ってちょうだい」
ちょっと驚いた。
リーダーとばかり思っていた少年は実はそうではなった。
しかも、この優等生タイプのそれでいてどこか大人の雰囲気のある少女がリーダーだったのだ。
『子ども社会も女性上位か』
などと変なことを考えてしまっていた僕に
「ごめんなさい。話を続けますね。
私たちの組織はSTCと言います。
SAVE THE CHIRDRENの略です。わかりやすいでしょ?」
そういって微笑んでいる少女はまだあどけない。
「でも、言葉通り今の子どもたちを救えるのは子ども同士の連帯と大人社会への直接的な闘いしか、方法はないのです。
だから、言葉通り子どもたちを救え!を合言葉に各地でそれぞれの子どもたちが闘っているのです。
組織の構成員はすでに500名を超えています。
支部も東京だけで5箇所、首都圏には各県に一箇所、地方にも何箇所か私たちが『基地』と呼んでいる場所があります。
基地という表現は変かもしれませんね。
アジトというのが犯罪組織には妥当かもしれませんが、私たちは犯罪組織ではない認識を持っています。
本当の犯罪は今の大人社会そのものですから。
ここは東京の本部です。
ここにいる子どもたちは……」
そこまで言いかけて、少女はしばらく沈黙した。
数秒後
「ここの子どもたちに親はいません。
皆、大人社会の犠牲になった親の子どもたちなんです。
つまり、大人社会の歯車から外れて、すべてを失ってしまった親が子どもを道づれに、死を選んでしまった。
しかし、子どもだけ死のふちから生還して、親だけが逝ってしまい、残された子どもたちなのです」
真智子の目が少し
「ごめんなさい。
この話をするとどうしても……だから、この闘いは自分たちの親のための闘いでもあるんです。
大人社会についていけなくなった大人を切り捨てた。
その捨てられた大人たちの無念を晴らすための復讐でもあるんです」
「おじさん、さっきはパパなんて言ってごめんね。本当はそんな年じゃないよね。
でも、何かいいたくなっちゃってさ」
達也が僕にむかって少しはにかんだように言った。
「パパね……なんだか、ずっと忘れていた言葉だわ。
私たちは、今していることを正しいと思って行動しています。
信念をもって行動しているんです。
どうかご理解ください」
そういってしばらくどの子どもも下を向いて黙り込んでしまった。
「おじさん、僕らを信用してくれるかな?
僕らの行動を外にもらさないって約束してくれる?
もちろん、おじさんはここにはいられないだろうから、帰すつもりでいるよ。
でも、おじさんがもし、警察やマスコミなんかに僕らのことを言ってしまったら、僕らだけじゃなくて僕らと共に行動している数百人の子どもたちが犠牲になるんだ。
わかってくれるよね」
達也が哀願するような目で訴えた。
「そんなことしたら、地獄の果てまで追っていくさ。
絶対許さない。脅しじゃないぜ。
わかってるよな。おっさん」
信二がすごんで見せているが先ほどの真智子の一言で後ずさった姿を思い出して妙に可愛く思えた。
「とにかく、今からあなたを解放します。
本当に手荒なまねをしてごめんなさい。
ご家庭もおありでしょうから、これ以上私たちにかかわらないほうが賢明だと思います。
あなたのために、そして私たちのためにも」
そういって真智子は僕に近づいてきて足の縄を解きにかかった。
すかさず達也もかけよってきて僕の後ろ手に縛られた縄をほどきにかかった。
つられて、達也よりもさらに幼そうな少年が反対の足の縄をほどいた。
信二は黙ってその様子を見ていた。
というより僕を睨んでいた。
手足が自由になったので、自分の手で口のガムテープを外そうとした瞬間、達也が僕の手を止めて
「言いたいことがあるかもしれないけど、そのテープはここのドアを出てからはがしてくれる?
ごめんね。
こんな風に巻き込むつもりじゃなかったんだ。
本当にごめんなさい」
本当にすまなさそうに達也が言ったので、それに従うことにした。
奥の部屋から出されるとその隣の部屋には数台のパソコンや何かの機械が並んでいて
「秘密基地」
らしさを
さきほどのダイニングに僕の鞄が置いてあった。
それを達也が取ってくれて、玄関先まで先導してくれた。
他の子どもたちはダイニングにそのまま残り、僕が出て行くのを見ていた。
「本当にごめんね。
嫌な思いさせちゃって、でも、お願いね。
ここのことは絶対に言わないで、信じてるから」
『信じてるから』
深雪のことを思い出した。
二人で結婚の話をしたときに、はにかんだ深雪が僕の答えを待たずに
「ただ、信じてるから」
と言っていたことを。
玄関から外に出され、振り返るとすぐにドアが閉められ「ガチャリ」と鍵がかけられた。
しばらくそこに
「ふぅー」
ため息をついた僕は、そのままエレベータに向って歩き出した。
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