第16話

ゆっくり目を開けると少し薄暗い部屋の中にいて自分が何をしていたのかすぐには思い出せなかった。


しばらくして目が慣れてくると先ほどとは違う奥の部屋の中に連れて行かれていたことに気づいた。


同時に自分の手足の自由が利かなくなっていることにも気づかされた。

椅子に固定して手と足を縛り付けられている。

さらに、口にはガムテープらしきものを貼られていた。


しばらくったって少年が現れた。


「ごめんね、おじさん。

手荒な真似はよしてって言ったんだけど……リーダーがどうしてもって……」


済まなそうに言っている少年の背後にいつの間にか数人の少年少女が立っていた。


その中の一人が、


「達也、お客さんが目覚めたようだな。

申し訳ないけど、やっぱり大人は信用できないんで、このような歓迎をしてしまったけど、悪く思わないでくれ」


おそらくその子がリーダーなのだろう。

子どもといっても、もう中学生くらいだろうか、やたらに背がスラッとしていてる、170くらいはありそうだったが、よく顔をみるとどこかあどけない子どもの表情を残していた。

しかも結構なイケメンである。


「名前がわからないので達也がいうように『おじさん』と呼ばせてもらうけど、とりあえず静かに僕の話を聴いてくれ」


静かにも何も手足を縛られ口にガムテープまでされていれば動こうという気力さえなかった。


「達也、ああ、この子だけど、この子から僕らのことは聞いているかもしれないけど、もう一度きちんと説明させてもらうよ。

僕らは僕らの将来ともっと幼い、あるいはこれから生まれてくる子どもたちのために立ち上がった戦士だ。

今の腐った大人社会に対して反旗をひるがえし、本当に今の子どもたちが将来に夢を持って生き生きと生活できる社会を作るために立ち上がった組織なんだ。

つまり、その……」


そこまで勢いよく言いかけた少年を隣の少女がさえぎった。


「いいわ、私が説明するから」


さっきの勢い込んだ少年がすごすごと後ずさった。



「おじさま、まずはこんな形のお迎えをして申し訳ございませんでした。

お詫びいたします。

でも、私たちはご覧の通り子どもだけの組織ですから、必要以上に警戒をしないといつ外部に私たちの行動が知られて警察やその他の組織に狙われないとも限りません。

このような非礼をお許しください」


そういって少女はぺこりと頭を下げた。

年のころはやはり中学生くらいだろうか、背は小さく華奢きゃしゃだがどこかちょっと大人びた色気のようなものを感じた。

しかも、『優等生』という表現がぴったりの感じだった。


「達也くんからお聞きの通り、私たちは大人社会に対して直接的な行動、つまり、テロを行い始めました。

もちろん、それ自体、反社会的な行動であり、人の命をあやめるというのは、許されることではないことは十分承知しています。

しかし、今の大人社会のためにどれほど多くの子どもたちが犠牲になっていることでしょう。

新聞やニュースは『虐待』や『少年犯罪』など直接的に浮き彫りになったことだけを取り上げて報道しますが、本当は虐待を受けている子どもはその数千倍、犯罪を起こしたいと考えている子どもは同じく数百倍はいるのです。

あっ、虐待と少年犯罪は反対のものと考えられるかもしれませんが、実は表裏一体のものなのです。

幼い頃に虐待を受けた子どもはその反動で少年犯罪におちいるということをどこかでお聞きになっているかもしれませんが、まさに、その通りなのです。

今の世の中に得体の知れない『閉塞感』が漂っていることは大人であるあなたも感じられていると思います。

でも、その被害を一番受けているのは今の子どもたちなのです。

大人が作り出した閉塞感、抜け道のないスパイラルのような構造社会、それらは実は明治の頃から大人たちが作り続けてきた社会のうみが今になって一気に噴出してきた。

もう少し普通に言えば、ずっと溜まっていた毒があることを知りながらそこに目を向けず知らない振りをしてきた大人たちのために、今の子どもたちがもっとも被害を受けているのです。

そのためにあるものは直接的な虐待を大人から受け、あるものはその閉塞感や虐待がもとで精神的に抜け道が見出せず、犯罪に走ってしまう。

でも、犯罪を犯した子どもが悪いのではないのです。

それを予防できなかった大人たちに大きな要因、もっと言えば、大人たちが目をつぶってきた毒をどう吐いていいかわからなくなった子どもが犯罪に走ってしまうのです。

でも、実はそうした犯罪を犯す子どもたちも犠牲者なのです……

少し熱が入ってしまいましたね。恥ずかしい。」


熱いトークのあとにちょっと頬をあからめてうつむいた少女の姿が妙に愛らしかった。

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