第15話
「こっちだよ」
駅を背にして横断歩道を渡り、そのまま小さな商店街のようなところにさしかかった。
「ここ」
少年が目で合図するように僕を促すと目の前には何の変哲もないマンションがあった。
少し造りが古いのでいまどきのマンションのようにオートロックでもなく、ガラスの扉を引くとそこに約三十くらいの銀色の郵便受けが並んでおり、その奥に一基だけのエレベータがあった。
上行きのボタンを押した少年はエレベータが下りてくる間少し落ち着かない様子だった。
じっと降りてくるエレベータの数字を追ってはいたが、足をパタパタと踏み鳴らし今か今かという様子が伺えた。
エレベータが来るとサッと自分から乗り込み、早く、と言わんばかりに僕に目配せをして、乗るように促した。
六階のボタンを押した少年は再び階のボタンを追いながら足だけをパタパタとさせていた。
六階に着くとやはり少年がサッと降りて僕を振り返り、そのまま右手のほうに歩き出した。
外からはまわりの建造物のせいかあまり大きなマンションと思わなかったが、妙に外廊下が長く、ちょうど六角形を描くように曲がっていて、その一番奥の部屋まで行った。
少年はインターホンを鳴らさず「トン、トト、トン、トン」とはっきり合図とわかるようにドアをノックした。
しばらく間があって、ドアの内側から、「トン、トト、トン、トン」と同じリズムでノックが返ってきた。
再び少年が「トン、トン、トト、トン」とさっきとは違うリズムで返し、ようやく鍵が開けられる音がした。
ドアが開きかけたとき少年は僕を見て
「ちょっとここで待っててくれる?」
と言って、自分だけが中に入って再び
「ガチャリ」
と鍵が閉められる音がした。
ここまで警戒する様子を見て
「ほんとに秘密基地なんだ」
と妙に納得してしまった。
置いてけぼりを食った僕はそのまま少し周りを眺めていた。
どのドアも少し
いったい築何年だろうなどと考えていた時に「ガチャリ」
と鍵が開く音がして少年が半開きのドアから僕においでおいでをしていた。
そのまま中に通されたが、人気がない。
入ってすぐがダイニングキッチンのような作りになっていたが、そこには少年以外誰もいなかった。
少しダイニングの広さに合わない大き目のテーブルに向い合わせに六脚の椅子が並べられていた。
「こっちに座ってくれる?」
席を勧められた僕は素直に従った。
「何かのど渇いたよね。ジュースしかないけど飲む?」
なんか本当に親子が家に帰ってきてする普通の会話のようだった。
僕は思考が止まっていたのか
「あぁ」
と生返事をすると少年はそこにあるやはりダイニングに不釣合いな大き目の冷蔵庫から紙パックの林檎ジュースを取り出すとそれを二つのコップに注ぎ分けた。
一つを僕の前に差し出して
「どうぞ」
と言う少年にどこか大人びた接客態度のような変な感じを受けた。
ジュースを出されて、急に本当にのどが渇いていたことを感じ、コップをつかむと一気に飲み干してしまった。
「やっぱりのど渇いていたよね。けっこう歩いたし」
また、普通の会話をした少年が僕を見てにっこりと笑った。
その笑顔に気をとられていた僕は背後の気配に全く気づかず、次の瞬間首の辺りに
「ガン!」
という衝撃を受けてそのまま気を失ってしまった。
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