第13話

二日後、ご両親から葬儀について知らせが来た。

会社は有休をとり、深雪の実家のある埼玉県の深谷市まで出向いた。

葬儀は実家ではなく、近くのセレモニーホールを借りて行われた。


一通りの参列者の焼香が終わると両親が遺影を抱き挨拶に出てきた。

やはり、涙なくしては見られなかった。

そこにはマスコミも駆けつけていて、多くのフラッシュがかれ、遠目だったがテレビ中継も来ていたようだ。


ずっとテレビを見る気力も無かったため、深雪の事件がどのように報道されているか知らなかったが、後から会社の同僚に聞いたところによると、うちのマンションや僕の存在についても報道の中で話されていたらしい。


「同棲中の男性がいて……」


というようにはたから聞くとまるで僕らの関係がいかがわしいもののように聞こえていたらしい。


幸い見る機会がなかったので、葬儀の時には冷静でいられた。


帰り道、一人のマスコミらしい人間が僕に近寄ってきて


「松木さんですよね?」


と僕の名前まで知っていて話しかけてきた。


僕はその時点では報道の様子を知らなかったので


「はぁ」


と適当に返事をしてしまったのだが、


「深雪さんが亡くなられた日あなたは会社にいらしたそうですが、最初に深雪さんのことを聞かされたときはどう思いましたか?」


いきなり、神経を逆なでするような質問に急激に怒りがこみ上げてきた。

しかし、怒りを見せては相手の思う壺と冷静に考え、いったん言葉を飲み込んだあと早足で歩きながら


「ショックでした。それ以上でもそれ以下でもありません。

もう、勘弁してください」


と言い放ちその場を立ち去ろうとした。


なおも、記者はしつこく何か聞いてきたが、一切答えることなく、路上でタクシーを拾って、深谷駅まで戻った。

さすがにここまではマスコミも追いついてきていない様子でそのまま、自宅まで帰った。


一応、マスコミが家の周りにいるのでは、と警戒したが、杞憂きゆうに終わった。


まだ慣れない暗い部屋の中に一人で入るときには、何か胸の中を締め付けられるような感覚が走る。


明かりを点け、冷蔵庫から缶ビールを取り出し、ダイニングテーブルに腰掛けた。


いままでほとんど家で飲む習慣はなかったのに、深雪の死後、欠かさず毎日飲んでいる。


深雪へのとむらいという理由をつけてはいるが、本当のところ飲まずに眠ることはできなかった。


幸い酒は弱いので缶ビール一本あければすぐに酔いが回り、転がるようにベットに入ればそのまま朝を迎えられるのだった。


『何も考えたくない』


昼間は今までと『人が違ったようだ』と同僚に陰口をたたかれるほど、仕事に没頭した。


おかげで営業成績は伸びたが、全く喜びを感じることはなかった。


会社が終わればそのまままっすぐに家に帰り、風呂に入り、ビールを飲んで寝る。


そのサイクルがすっかり当たり前になり、今朝も機械的に朝の支度を整え、会社に出向くはずだった。


それが、この惨事でとんでもないことに巻き込まれたのだった。

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