第11話


「ちょうど姉ちゃんが帰ってきたとき、親父もお袋も買い物に出かけてたろ?

あの時姉ちゃんが、8日に友達と会うって言ってたんだ。

たぶん、大学の友達って言ってたと思う。

ほら、姉ちゃんが入ってた何とかいうサークルの友達で……」


そこまで言ってから弟は僕のほうをチラッと見て何か言いづらそうに下を向き


「確か、橘川きつかわさん、サークルの部長だった橘川さんと会うって言ってたんだ」


その後の両親や刑事とのやり取りでなぜ弟がうつむき加減で話をしたかがわかった。

橘川と言うのはどうも深雪の元彼らしかった。

大学時代付き合っていて別れはしたのだが、その後も友達として交流はあったらしい。


僕は聞かされていなかったので少しショックを受けたが、深雪の性格から一度は付き合ったが別れた人と男女の関係を続けられるような器用なコではなかったから、交流はあっても本当に友達だったのだろう、と納得はした。


「で、啓太君だっけ、君はその橘川さんって人は知っているのかね?」


笹本刑事が慎重に聞いた。


啓太君も慎重に


「はい、一度だけ会ったことがあります。

姉貴のサークルに連れて行かれて、一緒にパーティみたいなのに参加して、そこで紹介されました」


深雪はちょっとミーハーだが、いわゆるスキー&テニスサークルに所属していて、そのことを僕が馬鹿にするといつもムッとして


「ミーハーじゃないの!

練習は体育会系でハードだったんだから!」


と言い返していたのを思い出した。


「じゃあ、その人の顔はわかるよね?

ご両親、ご実家には深雪さんのアルバムか何ありますか?」


笹本刑事が色めきたって尋ねると母親が


「確か深雪が保存していたアルバムとあと私は見たことはないのですが、確か、パソコンに何とか言う……インターネットですか、そこで見れる。えっと」

「ホームページ?」


啓太君が促した。


「そうそのホームなんたらでそのサークルの紹介がされていて深雪も写ってるって言いましたから、それを見れば橘川さんも写っているかもしれません」


「おい!」


笹本刑事が若手の刑事を呼ぶとなにやら耳打ちをして、


「そのサークル名はわかりますかね?」


再び母親と啓太君に聞いた。


「あっ、確か…PSTって言ってました。単純で笑っちゃったんですけど、プレイスキー&テニスの略だそうです。」


啓太君が答えた。


確かに単純で安易だ、もしかすると深雪がつけたのかな?

ちょっと本人には申し訳ないがストレートな性格なだけにそう思ってしまった。


「PSTだね。わかった。おい!高田!」「わかりました!」


高田と呼ばれた若い刑事がサッと会議室から出て行った。

向き直った笹本刑事が 


「ありがとうございました。

少しは捜査に進展があるかもしれません。

ところで……」


と言いかけて急に僕のほうを見て


「松木さんもありがとうございました。

このあとはちょっとご両親と深雪さんのご遺体のことで……」


そういうと、もう一人いた若い警察官(制服を着ていたので刑事ではない)に目配せすると、僕に立ち上がるよう促し、その場から連れて出るように言われた。


ご両親と啓太君に挨拶を済まし、その場を立ち去った。

おそらく、深雪の遺体は検死にかけられるのだろう。

事件や事故で亡くなった遺体は検死をされると聞いたことはあるので、その了解を両親に得るのだろう。

そのとき両親が再び動転する可能性があるので、僕をその場から離したのだろうことは想像ができた。

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