第10話
家族が霊安室で深雪の遺体と対面をしている間、しばらく待たされた。
その間、どういう顔で両親に会えばいいのか、警察に呼ばれたときよりも緊張をした。
「松木さん」
先ほどの笹本刑事に呼ばれ、取調室の横の広めの会議室のようなところに入った。そこにはすでに深雪の家族がいて、僕が入ると睨むような視線が刺さった。
「あんたが松木さんか?どうして娘が死んだんだ!お前が何をしたんだ!」
いきなり父親が僕に迫ってきて殴りかかろうとした。
慌ててそばにいた先ほどの若い刑事が父親を取り押さえて
「お父さん!お気持ちはわかりますが、松木さんは犯人でも何でもないんですよ!落ち着いてください!」
と言ってくれた。
しかし、そのそばで今度は母親が急に泣き崩れ
「どうして、どうして深雪がこんな目にあわなきゃいけないの?誰か深雪を返して!生きたまま返してください!」
と号泣し始めた。
弟はまだ十代のようで僕をジッと睨みつけたまま、
「とにかく、落ち着いて座ってください。松木さんもどうぞこちらへ」
会議室の椅子を勧められ、ようやく座った両親は今度は虚脱した表情で刑事が話している言葉も耳に入っていない様子だった。
少し落ち着いたのか、父親が急に
「松木さん、先ほどは失礼しました。娘がこんなことになって、動転してしまいました。実は松木さんのことは深雪から聞いておりました。とても良くしてくれていると深雪は言っていました。結婚するならあなただと、言っていました」
深雪が僕との結婚を考えていた。
その言葉に驚いた。
深雪は
「結婚したいね」
と僕が言うと決まって
「コウくんがいい子にしてたらね~」
と言っていつもその話題をはぐらかしていた。
内心結婚は
さらに
「実は先週、こっそりうちに帰って来ていましてね。
その時もあなたの話ばかりしていました。
深雪はいまどきの子にしては珍しく私たち両親には本当に包み隠さずいろんなことを話してくれていたのです。
普通なら私も父親として娘が同棲したなんてことを知ったら、猛烈に反対するところですが、深雪があまりにもサバサバと話すんで、怒るタイミングを逸していたくらいです。
でも、深雪は小さな頃から人を見る目は確かで、今までつきあった友達は今でもずっと交流が続いていて、どの友達も本当に大切にしていました」
一人暮らしをしていたとはいえ、実家が埼玉だったので、深雪は結構頻繁に実家には顔を出していた。
友達を大切に……深雪らしいと思った。
深雪も自分自身で
「私ってそんなに交流は広くないけど親友と呼べる友達は小学校から大学まで必ずできてたよ!
今でもその子達とは交流が続いているし、離れてしまっていてもどこか心がつながっているっていうか……」
そんなことを話してくれていたことを思い出した。
ようやく両親とも打ち解けてきた時、急に笹本刑事が言った。
「お父さん、今深雪さんは友達とずっと交流が続いているとおっしゃいましたよね?」
笹本刑事が聞こうとしていることがわかった。
「深雪さんは先週ご実家に帰られたと言われましたが、そのとき来週、友達と会う話はしていませんでしたか?」
「友達と会う話?」
しばらく父親も母親も考えていたが、父親が
「そのようなことは言っていなかったように思います。どうだ?」
母親に水を向けたが母親も
「深雪からは聞かされていません」
そう言ったきり黙ってしまった。
しばらくの沈黙のあと急に
「僕、聞いてます」
それは弟の発言だった。
「何?本当か?話してみろ」
父親が促すと、弟が話し出した。
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