第9話


「そういえば……」

「何ですか?ゆっくりでいいですから、応えてください」


「三日ほど前ですが、僕が帰ってから、夕食の支度をしてくれていた時に、深雪が

『明日、大学のときの友達に会うの。

だから帰りが遅くなると思うから悪いけどご飯食べてきてくれる』

と言ったのですが、当日になって帰宅したときにすでに深雪は帰ってきていてそのことを尋ねると

『あぁ、相手の都合でキャンセルになったの』

と応えて、僕が、どんな人なのその人って?と聞いても、

『大学のときの友達だよ。

あっ男だと思って妬いてるの?

コウくん可愛い!大好きぃ!』

といってはぐらかされてうやむやになってしまったことがありました」

「その後その大学の友達と連絡をとっていたそぶりはありましたか?」


「いいえ、なかったと思います。その日以外は、そのことについて話しませんでしたから、よくはわかりませんが、たぶんないと思います」

「うーむ、その相手ですが、あなたが、その……やきもちを妬いたとかで、男の人かと思った、との話ですが、彼女ははっきり『女性だ』といいましたか?」


やはり男の影を疑っているのか……

「いいえ、否定も肯定もしませんでした。

でも、言い方のニュアンスから女の友達とばかり思っていました」


「そうですか、実はですね。

彼女の携帯電話が無くなっているのです。

彼女は携帯電話を持っていましたよね?」

「はい、持っていました。僕との普段のやり取りも携帯でメールしていましたから……」


「その携帯が無くなっているのです。

どこかで無くしたとかは言っていませんでしたよね?」

「はい、今朝も家を出た後、電車の中からメールをしてちゃんと返信もきていましたから、なくしたとは思えません。」


「そうですか、やはり携帯は今日まで持っていたのですね。

番号を教えていただけますか?」


僕は、自分の携帯を取り出し、検索をして刑事に見せた。


「ありがとうございます。あの、差し支えなければ今ここで深雪さんの携帯に電話をしてみていただけませんか?」


ちょっと驚いた。


死んだ深雪の携帯に電話をしろと言われ、今教えたのはなんなんだ?と思った。


刑事なのだから自分がしてみればいいじゃないか、と、その行動を指示した言葉を疑った。


「すみません。

亡くなった深雪さんに電話をしている気分になってしまうかもしれませんが、もし犯人がその携帯を所持していたら、あなたからの着信なら疑いを持たないかもしれないからです。とりあえずその携帯が繋がるかどうかを調べたいので、ご協力いただけませんか?」


言っている意味が良くわからなかった。

あとで思い返すと合点がてんがいったのだが、要はこの事件はまだ、マスコミにも知らされていないため、表沙汰にはなっておらず、深雪の携帯をもし、犯人が所持していた場合、僕からの着信なら特に疑わないだろうと言うことらしかった。


「わかりました」


そう言って僕はもう、この世にはいない深雪の電話に発信した。


プルルルル…プルルルル…


電話がつながった。

しばらくして留守電に切り替わり機械音が鳴った。


「ありがとうございます。深雪さんの携帯は生きてますね」


死んだ深雪の携帯が生きている…刑事の表現に違和感を覚えたが敢えて口には出さなかった。


それから小一時間ほど刑事にいろいろと聞かれていると、そこに深雪の実家から両親と弟が駆けつけたという連絡が刑事に入った。


「ご両親とお会いになりますか?」


と言われ、かなり戸惑ったが、変に隠れるのもおかしな話しなので会うことにした。

もちろん、面識は無かった。

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