第6話
九ヶ月前
「行ってきます」
「いってらっしゃい!気をつけてね。早く帰ってきてよ」(チュッ)
「うん、いい子で待っててね。行ってきまーす」
僕の朝の風景、愛する彼女に見送られて出勤する喜び、とても幸せな日常。
仕事へのやりがいは、やっぱりプライベートの充実が大事だ。
彼女の名前は
というか、僕が一目惚れで半ば強引に彼女を食事に誘ったりして、最初は迷惑だったようだ。
付き合いだしてからしばらくしてそのようなことを言われた覚えがある。
しかし、女心というのは不思議なもので、その頃、彼女には同い年の彼氏がいたのだが、その彼氏と喧嘩した日に呼び出されて、飲みに行った。
そこで散々彼氏の愚痴を聞かされて、酔っ払った彼女を介抱することになり、彼女のアパートまで連れて帰ることになった。
家についてから彼女は酔いのあまり、気分が悪くなり玄関先で吐いてしまった。
かなりの
実は僕にも送った手前、下心がなかったわけではなく、このまま彼女が酔っていることをいいことに、関係ができてしまえば…
くらいは思っていたのだが、あいにくそうなるどころか、玄関先で寝入ってしまった彼女を部屋の奥まで運び、汚物で汚れた衣服を着替えさせ、(これはちょっとお得だったが……)寝ている彼女を襲うのはさすがに気がひけて、玄関先の汚物まで掃除して、とりあえずほっていくわけにも行かなかったので、寝ている彼女の
朝方近くにふと目を覚ますと、彼女が僕の目の前に顔を近づけてジッと僕の顔を見つめていた。
驚いた僕は、情けないことに
「わぁ!」
と声を上げてしまい、彼女にすこぶる笑われた。
彼女は着替えていた自分の姿を見て、てっきり裸にされて僕にやられたと思ったらしく、はじめ『どうしてやろうか』と、考えながら僕の顔を見ていたらしい。
僕が何もしていないことがわかると、ホッとした様子で、温かいコーヒーを淹れてくれて、その後、僕が汚物を処理したことや、寝床まで運んでくれたことがわかって、赤面しながら何度も謝った。
その必死さが可愛らしくてますます惚れたというと、急に僕に抱きついてきて、
「私を抱いてくれる?」
と彼女のほうから攻めてきた。
一瞬戸惑ったが、好きになったのは僕のほうだったから、見事に体は反応して、彼女の気持ちに応えることになった。
それから二週間ほどして、彼女から
「彼氏と別れた」
ことを聞かされ、僕と付き合うことになり、それから一月後に、彼女のほうから僕の家に入り浸るようになり、
「家賃二軒分はもったいないから」
と僕に相談する前に、住んでいたアパートを引き払って、本格的に居座ることになった。
「押しかけ女房」
と自分で言いながらも、悪びれた様子はなく、まぁそんな自由奔放さが好きなところでもあったから、なんとなく許せてしまった。
そして半年、最近は同棲生活がかなり板についてきて、近所では結婚していると思われているようだ。
彼女はバイト先を変えたが、やはり僕の会社の近くで、早く仕事が終わった日などは帰りに待ち合わせをして、食事などをした。
さらに彼女の提案で、マンションはご近所の手前もあって、あまり大きな声が出せないからと、時々二人でラブホにも行った。
「こうすればいつまでも新鮮な気分でできるでしょ?」
と言われ、少々呆れたが、そんな言葉の裏には『いつまでも仲良くいたい』という彼女の願望もあったらしい。
僕はそんな彼女が大好きで、彼女も僕のことを本当に愛してくれた。
まさに幸せの絶頂だった。
そんな時だった。
あの忌まわしい出来事が起こったのは…。
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