第5話

「大人がもっとちゃんと未来の子どもたちのことを考えて、何十年も前からちゃんと行動してくれていれば、こんなことをせずにすんだんだよ」


先ほどまで冷たい目をしていた少年が、少し熱を帯びて語る。


「今の世の中を牛耳っている政治家や一流企業の社長とかの大人たちがもっと、ちゃんと次の世代のことを考えて行動してくれれば、日本だって世界だってもっと平和に、環境だってもっと良くなって、誰もが笑顔で生活ができたはずだよ」


「……」


「おじさん、30歳くらい?おじさんも本当は犠牲者だけどね……」


「犠牲者……?」


確かに僕が生まれて育った頃には日本は経済的にも最盛期を向かえ、何でも日本人がやることが「正しい」と勘違いされ、世界中の富に手をつけて、そのツケが突然バブル崩壊という形で日本中を覆い、誰にも修復できない負のスパイラルに引き込まれていった。


結果、今のような不況や経済のマイナス成長、世界へのツケ…

でも、一度栄光を味わったものは簡単にそのプライドを捨てきれず、あらたな欲を見つけ、無駄な足掻あがきをしている。

それがまたツケとなって借金が雪だるまのように増えていく。

でも、結局その責任は誰も取ろうとはしない……


少年の言う通りなのだ。


でも、大人としての自覚が普段は乏しいのに、こんなときに限って、そう、相手が子どもだから、大人だということを誇示するために言ってしまう。


「だからと言って人を殺していいことにはならないだろう。

殺された人には何の罪もないんだぞ」


「……」


しばらく黙っていた少年がゆっくりとでも、はっきりと言った。


「確かに、今日死んだ人に直接の罪はないかもしれない。

でも、死んでいった大人たちはこの世の中を作っている人たちでしょ。

じゃあ、この世の中を未来のためにちゃんと作り変えようとしてくれていた人たちなの?

違うよね。

自分の生活、自分の欲望のために、働き、争い、環境を破壊して、それでも

『自分のため、家族のため』

という大義名分のもとに、その生活をやめようとしない人たちだよね。

同罪だよ。

未来を考えずに行動している、汚い大人たちだよ」


自分の心がえぐり取られるような感覚を持ちながら、それでもなお、抵抗せずにはいられなった。


「じゃあ、君たちと同じような子どもたちは?

高校生だってまだ、子どもだ、そんな子ども、つまり、君の仲間も君は殺したんだぞ!」


「……」


またしばらく沈黙をしていた少年がさらにゆっくりと答えた。


「子どももいた。だから、多少の犠牲はやむを得ないって言ったよね。

国同士の争いだってそうでしょ?

戦争はどうなの?

相手が悪だからといって自分のところの犠牲なしには勝利は得られないよね。

大きな希望のためには、仲間の犠牲はやむを得ないし、僕自身だって、本当は死ぬつもりで電車に乗ったんだよ。

僕の犠牲が、ちっぽけな僕のような人間の犠牲によって、未来の子どもたちが楽しく、明るく生きられるなら、それでいい。

そう思って電車に乗ったんだよ。

怖かったけどね……

本当はおじさんがお金を渡してくれなければいい、って心の中でつぶやいていたんだよ」


ショックだった。


何も返す言葉が見つからなくなった。

こんな少年がそこまでの覚悟と犠牲的精神を持って

「未来の子どもたちのために」

という目的のために自分の死を覚悟して

「任務」を「遂行」した。


僕にはできない。


少なくとも今の僕にはこの少年のように純粋な心を持つことはできなかった。


今の僕には……。

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