第4話


「復讐したんだよ。

今の大人たちに……少し子どもも乗ってたかもしれないけど、少々の犠牲はやむを得ないんだ。

今の大人たちに復讐しないとこのままでは僕たちが生きる、日本という国が駄目になってしまうから」


『何をいっているんだ?』


もう、僕の頭の中の動きは止まって、ただ、少年の言葉を流し込むしかなかった。


「おじさんまで巻き込みたくはなかったんだけどね。

組織で決めたことだから、きちんと遂行しないと、仲間を裏切ることになるからね。

でも、本当は僕も怖かったんだ。

大勢の人が死ぬことは理解できたし、人を殺すことはけっして良いことではないこともわかっているから。

でも、未来の僕たちのために、今やらないと駄目だったんだよ」


「……」


「でもね。

おじさんがお金を貸してくれなければ、任務が遂行できなったから。

おじさんのおかげでちゃんとターゲットを処理することができたから。

おじさんだけは死なせたくなかったんだ」




「冗談じゃない!!」


叫んだ僕は少年の襟首えりくびをつかみその顔をにらみつけた。

しかし、言葉は続かず少年を睨みつけたまま、頭の中で様々な言葉が飛び交っていた。


「テロ」「報復」「未来のため」「組織」「任務遂行」「僕のおかげ」「僕のおかげ」「僕のおかげ」……


「冗談じゃない!あの電車が爆破されたのは俺のせいだっていうのか!」


さらに力をこめて少年の襟首を締め上げていた。


「おまえに金を渡さなかったら、あの電車は爆破されずにすんだというのか!

俺のせいなのか!俺のせいなのか!」


少年の体を揺さぶる。


「く、苦しい……よ、お、じ、さん」


ハッと我に返り少年の首にかけた手を緩めた。


「ゴホッ、ゴホゴホ……大人は……いつも……そうだ。ゴホッゴホッ」


キッと僕を睨みつけた少年は大きく深呼吸して

「大人は何でもやったことの責任を回避しようとする。

それが自立した大人のやることなの?

自分で決めて自分から行動したことの責任を取るのは自分じゃないか。 

交通事故を起こして

『やる気はありませんでした』

って言ったって過失として責任は問われるでしょう?

同じことだよ。

自分がした行動なんだから、その責任を取るのは当たり前、大人は子どもにはその責任を押し付けるけど、自分の行動に責任をとらない大人がどれほどいるか知っているでしょ?」


何も言い返せなかった。少年の言う通りだからだ。


世の中がどんどん悪い方向に行っている。

そのことはどの大人も気づいている。


そして、それは大人自身のせいであることも知っている。

でも、その責任の所在をあいまいにして、誰のせいにもできず、ただ、政治が悪い、会社が悪い。

と実体のないものへの責任を声高に叫んで、それだけで自分の心をごまかし、力のない者は、ただ、日常の生活の中に埋没しようと自分を殺して生きている。


あるものは酒を飲み、あるものはストレスを性的な快楽でごまかし、何の解決にもなっていないことを自覚しながら

「生活があるから」

と今の日常を捨てることもできずに、システムの中に組み込まれようと意味のない努力を重ねている。


僕も大学生の頃、就職が目の前に来るまでは、ずっとそう考えて大人社会を批判していた。

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