願いと謀略③
「え? はっ? お前何をじょうだん」
「冗談ではない! 今は詳細は省くがこれは決して冗談などではなく、エルサドル公国軍の決定事項なのだ」
「ふざけるな! お前、なんでだ? だってお前こないだは戦争を終わらせようって」
「・・・すまない、先を越されてしまった」
「先を越されたって・・・それじゃあ何か? 俺達はお前達の親分の気まぐれで、何十年も住み続けたこの土地を追われ、路頭に迷えってのか?」
「・・・すまない」
「すまないじゃねぇよ! 何とか言ってみろ! そりゃあお前らには感謝してるよ!
都市との交易路が定まらず、貧困に喘いでいたこの村に農業や酪農を教え、自給自足で生活が出来るようにしてくれ、さらには特産品の栽培まで助言してくれたお前に、俺は何て感謝したら良いかって、そればっかり考えてた! なのに・・・
今更全部捨てろなんて・・・なんでだよ」
「・・・作物はまた作れる、牛もまた育てれば良い、だが人だけは、この村を愛する村人達だけは、何として守らないと・・・頼むベネット、納得してくれ」
「そんな! 簡単に出来るとおもっ」
「ん、んー? パパー? どうしたの? お客様?」
「え、エルサ」
ドラグニアとベネットが居間で激しい口論をしていると、その音で起きてしまったのか寝室からベネットの娘エルサが顔を出した。
「あ、叔父様だ♪ ねー聞いて叔父様―、パパったらいつもいつも叔父様の話ばかりなのよ? あいつはすごい奴だってそればっかり♪ 私もう耳にタコだわ」
「・・・エルサ・・・すまない」
「ん? 叔父様? そんな悲しい顔をしてどうしたの?」
「エルサ、もういい、お父さんたち大事な話をしているんだ、今日は大人しくお母さんの所においき?」
「えー、わかったわ、それなら叔父様! 明日また遊びに来てくれる? 私叔父様に渡したいものがあるの」
「・・・あぁ、分かったエルサ、約束だ」
「うん! じゃあおやすみなさい」
そう言うと、エルサは大人しく寝室へと姿を消した。
「・・・ドラグニア分かった、娘たちの為お前の言う通りにしよう」
「・・・すまない、本当に」
「無事に事が済んだら、復興手伝ってもらうからな」
「あぁ、一生掛かってでも、必ずやり遂げよう」
ドラグニアは、何の躊躇もなくそう返事していた。
故郷を捨てる、無二の親友であるベネットや彼の家族に対して、そのような苦渋の決断迫る事しか出来ない自分自身の力の無さを心底呪った、
だが同時に不謹慎ではあるがほんの少しだけ楽しみでもあった、今この時さえ凌ぐ事が出来たなら、本国から妻と息子を連れこの村に移住し、ベネットや村の人間、もし付いてきてくれるのであれば部隊の人間達も、そうやって多くの人の力を借りる事にはなるだろうが、また一からこの村で生きていく事を想像すると、意志とは裏腹にホンの少しだけ胸が高鳴ってしまう自分が居た。
「ありがとうベネット、なんとしても一人の死者も出すことなく、二日後を乗り切ってみせよう!」
「あぁその通りだ、俺も一回言ったからには村長として共に責任を取らせてもらう、直ぐに手分けして村中にこのことを伝えるぞ!」
二人は軽く拳を合わせると、直ぐに二手に分かれて走り出した。
空には満天の星空が輝いていて、困難に立ち向かわんとする自分たちの背中を、そっと押してくれている気がした。
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