魔人の手記

「こちらが私達の家です、綺麗な場所ではないですがどうぞ」


「は、はい、お邪魔します」


 村から少し離れた小高い丘にポツンと建つ一軒家の前に立ち、半身だけ蒼星達の方に向き直りながらアザリエは言った。


「あ、そうだわゲニス、お疲れ様今日はもう帰って良いわよ」

「し、しかし奥様、このような得体のしれない者どもを警戒もなく中に入れては」


「ふふっ、心配してくれてありがとう、でも私これでも元将校の妻よ、この人達に悪意があるかどうかぐらいはわかるものよ? それに今日はあの子も居てくれるみたいだし心配はないわ」


「は、はいかしこまりました」


 老婆はそういうと何度か振り返りながら、今来た道を引き返していった。


「お待たせ致しました、では中へどうぞ」


 アザリエはそういうと、少し重そうな木製の扉を開き蒼星達を居間へと通した。


「こちらに座って待っててもらえる? 今温かい物を準備するから」

「あ、いえそんなお気遣いなく」


「あらあらそんな風に言って、きょう一日村中駆け回っていたのでしょう? 二人とも頬が真っ赤になっているわ、それに私も久々のお客様で年甲斐もなくはしゃいでしまっているの、すぐに用意するからそこで座って待っていてちょうだい」


「は、はいありがとうございます」


 アザリエは優しい口調でそう言うと、そそくさとキッチンの奥へと消えていった。


 優しい口調と、ほんの少しだけ押しつけがましい厚意を向けてくれるところが、自分の母親に少しだけ似ていて、蒼星はほっこりとした気持ちになった。


「・・・素敵な人ね」

「うん、そうだね」


 しばらく無言で言われるがまま居間のソファに座っていたエルサが、落ち着いた声で言った。


 蒼星はエルサがドラグニアの家族に会ったらどのような行動に出るか不安に思っていて、もし何かあったら全力で止めるつもりでいたのだが、少し吹っ切れた様な覚悟を決めた様な表情の彼女を見て、野暮は言うまいとただ同意してみせた。

 

 ガタッ!


「お前たち何者だ! この家に何をしに来た! 俺たちから誇りも名前までも奪い、これ以上何を奪おうというのだ!」


「えっ?」


 居間から2階に上がる階段のそばで音がしたと思ったら、突然すごい勢いで男性が下りてきて、物凄い剣幕でまくし立てた。


「え・・・え?」


「あの! 私達は怪しいものではありません! 叔父様・・・ドラグニアラルスを助けたいんです!」

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