蒼星の願い②

「それで? どうするんだい」

「・・・はい、俺は・・・魔人の故郷に行き、そこで事の真実を見極め・・・魔人の、彼の家族を連れて帰ります」


 蒼星はアイビスの顔を真っ直ぐにみると、はっきりとした口調でそう言った。


「・・・うん、わかった、あとの事はやっておくからしっかりと役目を果たして来てね♪」


 アイビスは蒼星の覚悟を感じ取ったのか少し嬉しそうにニコッと笑うと、いつもの軽い調子でそういった。


「はい、ご迷惑をおかけします」

「はは、そんな事は気にしなくて良いんだよ、だってほら・・・若者は旅に出なきゃだろ?」


 アイビスはグッと親指を立てると白い歯を輝かせキリっと笑ってみせた。

 蒼星はガラにもなく少しアイビスをかっこいいと感じた、頼れる大人ってこんな人の事言うんじゃないかな。


「よーっし、じゃあ俺は総務課のエリカちゃんをくど・・・挨拶しに行かなきゃ♪」


 よし、今の尊敬は紙に包んで、この色ボケ中年無駄筋肉オヤジに熨斗付けて返してやろう。


 蒼星は独り心の中で毒づいた、でも実際の所リゲルのあの止め方を見ると、蒼星がこれから行う行為は、この世界ではかなりのリスクが生じるもので、それに伴って直属の上司であるアイビスは、それなりの数のお偉いさん達にギックリ腰になる程度には頭を下げなければならないのだろう、そう考えると少し胸が痛む気もする、


 でも今あのもう一人のおっさんの為に行動が出来るのはこの世界で自分ただ一人で、もし自分が動かなかったら、たった一月後には、あのおっさんはこの世に後悔を残したまま、綺麗に胴体と頭が離れ離れになってしまうのだ。


 もちろん、なんで自分がって思うし、辞めれるなら今すぐに辞めてやる、本来ならこんなバカみたいな話鼻で笑ってスルーしてる、でも見てしまったから、あのバカでかい背中が恐怖と悲哀で震えるのを、かすかな希望にすがりつくのを。


「だから・・・やるしかねぇ」


 蒼星は、誰にも聞こえないくらい小さい声で一人決意を口にした、かすれた声は誰に届く事も無く自分の腹の奥の方にストンと静かに落ちた気がした。

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