魔人の後悔
ドカッ! バコッ!
ドラグニア・ラルスは珍しく気が立っていた。
ラルスは置かれていた食事用のトレーを蹴り飛ばすと、勢いそのままに独房の壁に思い切り頭突きをくれ、滴り落ちる血液と共に先ほどの自らの行いへの後悔を洗い流していた。
「・・・くそっ」
ラルスはひとりごちると、ドカッと勢いよく与えられた寝具へと座り込んだ。
くそ・・・くそっ・・・くそっ! 私はなんて愚かな事をしてしまったのだ、年端も行かぬ子どもを捕まえて、よもやそれにすがり泣き、ただただ自らの願望を押し付けてしまった。
絶対・・・絶対に告げてはならぬと、そう決めていたはずなのだ。
それなのにあの若者の顔を見るやいなや、私は今までひた隠しにしてきた心のうちを簡単にさらけ出してしまった。
あの若者がそれを聞けば、きっと行動を起こしてしまうと分かっていたのに・・・それなのに私は・・・すまぬ『白狼』よ。
ラルスは不貞腐れた様にその場に寝転ぶと、何もない無機質な天井を眺めながら過去の事を思い浮かべていた。
私は、この国における「極悪非道の大量殺人犯」だ・・・
戦時下における私は【正義】という狂気を胸に掲げ、この国の兵士数千人の命を葬り去り・・・そしてその倍の数の友を失った・・・
中には家族を持つ者も沢山いただろう・・・その者たちはさぞ私を憎んでいるはずだ・・・
そして今も恨み殺さんとばかりに私の周りにへばり付き、じわりじわりと私の心と体を蝕んでいく・・・
それで良い・・・それで良いのだ、それだけの資格がこの者たちにはある。
そしてあの日、あのむせ返る様な夏の日に、私もそれを理解し受け入れた・・・はずなのに。
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