魔人と呼ばれた男②
コンッコ、ココン
「失礼します」
「おー、待ってたよ蒼星君」
蒼星が『雪だるま作ろう』のリズムで部長室に入ると、アイビスは待ってましたとばかりに手を振ってみせた。
「あの、先ほど言っていた」
「うんうん、そー、その事なんだけどさっ」
アイビスは少し溜めを作ると二パッと屈託のない笑顔を見せた。
「なんと! この度、遊佐蒼星君に・・・初めて個人での担当死刑囚を付ける事になりましたー!」
アイビスはパチパチと軽薄に手を叩いて見せ、蒼星によろしくと書類を手渡して来た。
「・・・えっと・・・あの・・・はい、了解しました」
蒼星は、どうせそんな事だろうとタカを括っていたのでそこまで落胆はしなかったが、今までリゲルに付いてしか対峙した事の無い死刑囚と、初めて自分一人で向き合わなければならないプレッシャーを感じ、少し自らの手が震えているのを感じた。
「まーまー、もちろん僕らもフォローはするし、少し難しい囚人ではあるけれど、君なら彼と正しく対話が出来ると判断して、蒼星君に任せる事にしたよ」
アイビスは先ほどとは打って変わって真剣な面持ちで蒼星を見ると、親指をグッと立てて見せた。
「・・・わかりました、精いっぱいやってみます」
蒼星は渡された書類を握りしめると、スッと一礼してアイビスの部屋を後にした。
「囚人番号1077、【魔人】ドラグニア・ラルス・・・魔人?」
蒼星がエウレーネ塔に向かう最中、囚人の情報が書かれた資料に目を通していると、そこにはそれはそれは恐ろしい数々の逸話が書かれていた。
ドラグニア・ラルスは、ドリアードが建国されて間もない頃、連合国の誕生を危惧し決起した隣国の将軍で、自ら倒した敵国の兵を全て焼き払うという所業から【煉獄の魔人】と言われ恐れられた歴戦の武将だった。
また敵国の兵士を焼き払う炎に照らされた真っ赤な頭髪が、まるで炎の軍神イフリートの様で、殺した人間の数は数千は下らないとされる極悪非道の悪魔と書かれていた。
・・・いや、なにこれちょっと怖すぎるんですけど!? なんでこんないたいけなピチピチ17才男子高校生の俺に与えられた初仕事の相手が、こんな恐ろしい大量殺人犯なの!? それになんだこの今どき売れないラノベですら出てこない様な中2設定・・・この世界はファイナルがファイナルでファンタジーしてるんですか!? あと作者バカなんですか?
蒼星があまりの理不尽さに【コンフュ】されていると、無常にもエウレーネ塔の扉がどんどん近づいてきてしまっていた。
・・・はぁ、マジで嫌なんですけど・・・でもやるしかねーのか・・・はぁ、後で絶対アイビスのクズ野郎、火あぶりにしてやる!。
先ほどまで少し尊敬しかけていた上司を焼死させることを心に誓うと、蒼星は重い足取りで囚人の待つ独房へと向かった。
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