魔人と呼ばれた男
「・・・お、おはようございまーす」
「やぁ! これはこれは蒼星、お久しぶりの出勤ですね」
蒼星がいたたまれない面持ちで【執行科】と書かれた木の扉を開くと、同僚のリゲルが目も合わさずに、つっけんどんに言った。
「えーっと・・・その、怒ってる?」
「・・・当たり前だバカ野郎! 全く俺たちがどれだけ心ぱっ・・・迷惑だったか分かってるのか?」
「はい、もー本当にこの度は誠に誠に、申し訳なさの極みなりける所存でございます」
あまりの申し訳なさについ日本語がおかしい事になっていた。
「ふんっ! 俺たちもそうだが、アイビスさんにも礼を言っておけよ? お前の為にかなり色々動いてくれたみたいだからっ・・・んっ」
リゲルはまだ怒りが収まらない様子ではあるが、乱暴に蒼星の机を指さすと、そこには淹れたてのコーヒーと快気祝いなのか大量のお茶菓子が置かれていた。
え、何このツンカワな生物、俺に対する愛情深すぎるでしょこの人・・・何ですか? 口説いているんですか? ごめんなさい、ちょっとグッときちゃいそうになりましたけど、まだ色々捨て去るには早すぎる気がするので、まだちょっと無理です・・・なんて考えが浮かんでは消えていった・・・いろはすは至高! 完結おめでとうございます。
「・・・ありがとうね」
「ふんっ」
何とかこのままBL展開になるのを阻止した蒼星は、リゲルに一言礼を言ってから席についた。
蒼星はディケーでの事件でそのまま入院してしまい、ケガが完治したのも早々に1週間の謹慎処分を食らってしまった為、執行科にも寮にも顔を出すことが出来ず今日まで来てしまっていた。
それでも執行科の面々(リゲル以外)は何事もなかったかの様に受け入れてくれて、こんなどこから来たのかも分からないド新人の為に、書類整理の仕事を分担したり、執行科の職員が起こした不祥事を鎮火する為に、色々と動いてくれていた様だった。
「いやもう本当・・・ありがとうございます」
蒼星は、誰に向かって言うでもなく、ただ自然と心に浮かんだ言葉をそのまま口にしていた。
ドタッ、バタンッ。
「ハァ、ハァ・・・いやいや、諸君・・・今日も・・・なんとも爽やかな朝だね♪」
始業開始時間ギリギリになり部屋に飛び込んできたアイビス部長は、セリフとは正反対の引きつった笑みを蒼星達に向けた。
「イヤイヤ、息も絶え絶えじゃないすかアイビスさん・・・」
リゲルの辛辣なツッコみに、少ししんみりしかけた部署内の空気がドッと沸くと、アイビスもハハハッと受け笑いをし、執行科は今日も平常運転の様子を保っていた。
「おや? 蒼星君じゃないかー! 復帰おめでとう♪」
「はいっ、諸々ご迷惑をおかけしてすみませんでした、その、色々とご迷惑をおかけしたみたいで、ありがとうございます」
蒼星が深々と頭を下げると、アイビスはやめてくれよとにこやかに笑った。
「そーだっ、そういえば僕から蒼星君に、とても素敵な快気祝いを用意してあるよ! 後で資料を取りに来た前♪」
「え、あ、はいっ、了解しました」
アイビスが言った瞬間、なにやら部署内の人間が一斉に目をそらした気がしたが、何かの気のせいだろうと思い、蒼星は素直に了承した。
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