第八話 困惑する修羅
……。
……。
…………で、だ。
よく分からないまま私は、いつの間にか用意されたギターを渡され、これまたよく分からないまま、3人に演奏を聴かせる事になった……いや、何で?
「……爺さん、本気?」
「僕は、この手の冗談は言わないよ。それぐらい、君なら察していると思っていたけど?」
「察していたからこそ、本気だと聞いているのよ。この人たちがどんな有名人か知らないけれど、独学で、それも片手間程度に練習しただけの子の演奏を聴かせるつもりなの?」
「聴かせるつもりだから、演奏してねとお願いしているんだよ」
「……それも分かっている。私は、わざわざ、有名人らしきこの3人に聴かせる理由を知りたいのよ」
この際、嘘は言わない。「……呆れた」言葉通りの表情を浮かべている山口と呼ばれた女もそうだが、男二人も似たような表情に……本当に、何も伝えていないのだろうか。
……伝えていないのだろう。
3人の様子を見れば、子供でも分かる。間違いなく、私が素人であることを知らない。それどころか、何やら下駄を幾つも履かせていたようだが……どういうつもりなのだろうか。
「そんなこと、すぐに分かるよ。さあ、聞かせて」
「……なるほど、教えてくれるつもりはないわけか」
「ついでに、歌もね。弾きながらだよ」
「演奏しながら歌え……まあ、そうしろっていうのなら、そうするわよ」
相も変わらず、よく分からん爺さんだ……そう諦めつつ、私はギターを構える。今時はネットを使えば、いくらでも練習方法が動画配信されているから、弾くだけなら何とか出来るが……ん?
……弾けと言われても、何を弾けばいいのだろうか。内心、私は首を傾げた。
他人に言える話ではないが、私は昨今の流行曲をほとんど知らない。いちおう、他者と会話を合わせられるようにはしていたが、それだけ。はっきり言って、どんな曲調だったのかすら、うろ覚えだ。
今でもはっきり記憶しているのは、『俺』の若かりし頃に流行ったモノばかりだ。当時は浴びるように音楽に身を晒した(邦楽・洋楽・問わず)が、ここでやるには選曲のチョイスが古いかもしれない。
私が練習の為に見た動画では、基礎的なリズム感覚を養うという意味で著作権切れの曲ばかりを演奏したし、そもそも曲の種類が……いや、もうこの際仕方がない……か。
(とりあえず、やるだけやってみるか……)
色々と考えるのが面倒臭くなった私は、今でも記憶に残っているあの時の歌を脳裏に思い浮かべながら……演奏を始めた。もちろん、歌いながら。
――当たり前だが、失敗はする。
いくらこの身体とはいえ、たった2か月の練習でどうにか出来るほど、人外ではない。というか、記憶の中の音を頼りにトレースしろというのが、無茶な話だ。
それでも目を閉じ全力で集中するが、失敗の回数は増える。
何とか頑張るが、正直……だから言わんこっちゃないって感じだ。心のどこかで失敗した回数をカウントしながら、そのまま何とか歌い続け……そして、終えた。
……。
……。
…………ん?
何の反応も返されない事に目を瞬かせた私は、目を開け……はて、と首を傾げた。
何故なら、私を見つめる3人(爺さん入れれば4人)の表情が、だ。
何時ぞやのオーディション会場の時と同じく、ぽかんとした……何だろうか、信じ難い何かを目の前にしたかのように、呆然としていたからだ。
(え、なに? いくら何でも、この反応は怖いのだけれども……)
下手なら下手だとしても、それならもう少し違う反応だろう。顔をしかめるなり、機嫌を悪くするなり……想定していたのと、どうも違う。
驚いているのは、分かるのだけれども。
そう思いながらも、そっとギターを下ろした私に「――やあ、お疲れ様。とても良かったよ」話しかけてきたのは、やはりというか、爺さんだった。
……正直、褒められるのは好きだ。というか、誰だって貶されるよりは褒められる方が好きだろう。
けれども、理由も分からず褒められるのは嫌いだ。特に、自分では上手くいっていないと分かっている事を褒められるのは。
「そう、ありがとう」
「全く嬉しくなさそうだね。もしかして、満足のゆく演奏が出来なかったから?」
「少し違うわね。満足云々じゃなくて、下手な演奏だと分かっているのを、これみよがしに褒められるのが嫌なのよ」
「なるほど、誰もが一度は通る道だね」
そう言われ、反射的に反論しそうになった私は……寸での所で呑み込んだ。下手に反論すると、それ以上のしっぺ返しが来そうな気がしたからだ。
この爺さん相手に口では勝てそうにないのは、これまでの付き合いから散々思い知らされた。「……喉が渇いたわ」なので、私はあえて話を逸らした。
まあ……そんな私の悪あがきも見透かされているのだろう。
爺さんは相変わらずの笑みを浮かべると、スタッフの一人に指示を出す。ああ、こういう所はちゃんと社長なんだなと思って見ていると、未だに呆然としている3人に声を掛けていた爺さんは。
「――そういえば、君が歌ったそれは、君のオリジナルかい?」
あ、そうそう……そんな感じの言い回しで、私に尋ねてきた。からかうような言い方では、なかった。
「はあ? 何言ってんの?」
それ故に、私は思わず、そんな返事をしてしまった。とはいえ、私は欠片も悪くはないだろう。
何故ならば、私が歌ったのは……発表されたのは何十年も前の事だが、それでも世界中で流行した洋楽の一つだからだ。
当時、学生だった人なら一度や二度は絶対に耳にしているはずだ。映画のEDテーマにも使われたし、日本にも何度かグループが公演に来た。
その度にドームは満員御礼、チケットは即日完売が続いたし、ドームの座席が定価の100倍近い値段で取引されたというのも、ニュースになった。
ボーカルの人は今でも伝説的な扱いをされているし、根強いファンは多い。売上枚数だって、ギネスブックに載っているぐらいだ。
好みの歌を聞く消費者ならともかく、芸能関係に就いて(しかも、音楽系)いて、それを知らないというのは……有り得ないだろう。
「いや、冗談ではなくてね、本当に気になるんだ。そこまで心を揺さぶる歌詞に演奏……どうやって作ったのかなってさ」
――なのに、爺さんは知らないようだ。
それこそ冗談だろうと思って、傍の3人を見やれば……爺さんと同じような反応だ。
いや、むしろ、爺さんよりもよっぽど強く、ギラギラとした視線を私に向けて……いや、いやいや、待て待て待て。
「……ちょっと、外の空気を吸って来ても?」
どうにも形容しがたい違和感を覚えた私は、ひとまずそう提案する。
訝しみつつも爺さんから了解を得た私は、小走りに外へと向かい……建物の出入り口傍で、スマホを取り出した。
調べるのは、今しがた演奏した曲のタイトルだ。
二十年以上経っているとはいえ、ビッグネームな事には変わりない。だから、タイトルだけでも相当な検索数がヒットする……はずだろうと思っていたのだが。
(……無いぞ。同じタイトルの曲こそあるが、歌っている人も中身も全く別モノばかりだ)
何故か、検索に全く引っ掛からない。画像検索もそうだが、当人の写真が一枚も見つからない。
名前を間違えて覚えているのかと思って、他の著名な音楽家で検索し直すが……結果は同じ。
不思議な事に、全くヒットしないわけではない。だが、明らかに数が少ない。
記憶に有る通りの写真が見つかっても、出していたはずの曲が無かったり、場合によっては別の職業に就いていたりしている。
スペルを一文字替えたり、日本語で検索したり、曲名で検索したり、とにかく片っ端から試してみるが……何一つ、『俺の記憶』と合致するモノがなかった。
これは……いったい、どういうことだ?
まさか、これもまた『代償』……いや、違う。『代償』は、私のこの現状だ……しかし、それ以外にコレを説明することが私には出来ない。
まるで、教科書を開いたら『織田信長(女)』と書かれていたかのような、何とも言い表し難い感覚で……と。
「――ああ、いたいた。戻って来ないから、心配したよ」
背後から、声を掛けられた。振り返れば、爺さんがこちらに歩み寄って来ていた。
「もしかして、急に演奏させたからかい? それなら、悪い事をしてしまったね。あの3人には僕から話しておくから、気晴らしにコンビニにでも――」
「あのさ――って曲名、知っているかしら?」
爺さんの労わりを遮って告げたソレは、私が知っている洋楽の中でも特にお気に入りのやつで……今しがた私が演奏した曲とは違うが、有名なやつであった。
見上げれば、爺さんは呆気に取られた様子で……けれども気を取り直してしばし考えた後……知らない、と首を横に振った。
ならばと、私は他にも幾つか曲名を上げる。邦楽と洋楽の区別なく、ダブルミリオンを記録したメジャーなやつを告げるが……爺さんは、一度として首を縦に振らなかった。
……これはいったい、どういう事態なのだろうか。
呆然とする私を尻目に、「……大丈夫かい?」爺さんはこちらを気遣う素振りを見せる。とりあえずは大丈夫だと返し、先ほどの音楽スタジオへ戻る……その最中。
……もしや、私が背負った『代償』は、もっと別な何かなのか?
私は、そんなことを考えていた。この『代償』がどのような形で私に関与しているのか……今の私には、皆目見当すら付かなかった。
――そんなふうにして、疑念と動揺が渦巻く内心を隠しながら、音楽スタジオへと戻ってきた私を出迎えたのは。
「高田文ちゃんって名前だったよね。単刀直入に言うけど、今さっきの歌は、君が作曲したのかい?」
スタジオに残されていた3人からの、執拗な質問であった。
多少なり違いはあったが中身は同じで、『その歌はオリジナルなのか?』というものであった。まあ、3人が興奮するのも無理はないと私は思った。
(ギネスブックにも載り、世界で3000万枚以上は売れた歌だ……今では古臭いと称されるかもしれないが、それだけの『力』がこの歌にはあるからな)
特に、ギターの端方は、この歌の凄さが分かるのだろう。その追及は凄まじく、場所が場所だったなら即警察を呼ばれてもおかしくない勢いであった。
いや、というか、普通に怖いし興奮が行き過ぎている。
私の肩を掴み、問い質すその姿は、もはや変質者か何かだろう。ぶっちゃけ、私が『私』でなかったら、悲鳴の一つ、涙の一つは零しても不思議ではなかった。
「――ちょ、ちょっと落ち着きなさい、端方さん! 興奮するのは分かるけど、相手は子供よ!」
そのあまりの剣幕に、先ほどまで私に敵意を向けていた……山口だったか。その山口が、強引に端方を引き剥がす。そこには緒方……だったか。緒方の協力もあってか、あっさり端方は私から離された。
「……す、すまない。ちょっと、興奮してしまった」
「しっかりしてよ! 気持ちは分かるけど、相手が子供だってことを忘れちゃ駄目よ!」
山口のお叱りを前に、端方は肩を落として反省しているようだった。「……文ちゃんも、ごめんね」次いで、私へ頭を下げられたが……ふう、ふう、ふう、と息を乱している様は、正直もう少し距離を取って欲しいかなと思った。
……いや、それよりも、さっきの質問だ。
端方からの質問は、実の所、爺さんを含めた4人の総意なのだろう。その証拠に、端方の性急な態度こそ咎めはしたが、質問の内容には何一つ触れていない。
だが……どうしたものかと、私は内心にて頭を抱えた。
今しがたの端方の言動と、他二人の態度も合わさって確定した。
理由は定かではないが、『俺』の若かりし頃に流行った歌が(特に、大流行した歌だ)、始めから存在していないことになっている。
つまり、本来の持ち主である歌手や作曲家の大半が、歌手や作曲家などの音楽家として実在していないのだ。
これは、非常に不味い事態だと……私は思った。何故なら、この歌は……いや、これらの歌は、現時点では私以外は誰も知り得ていないということに――。
「しかし、これまで楽器には学校の授業以外では触れたことがないんだろう? それなのに、どうしてそこまで巧みにギターを弾くだけでなく、作曲まで出来たんだ?」
(ほら、来たよ。絶対にその質問が来ると思っていたよ)
――なるからだ……と、思った直後。
比較的静観に徹していた緒方から、別アプローチからの疑問を投げかけられた。
それは何よりも最もな質問で、同時に、私にとってはかなり答えにくい質問であった。
だって、存在していない人の歌を、歌ったなんて……どう説明すればいいか、分からなかったからだ。
「……さあ、分からないわね。私に聞かれても、出来るんだから出来るとしか言い様がないもの」
それ故に、私はそう答えるしかなかった。実際、嘘は一つも混じっていない、真実の言葉ではあった。
「……本当に、二ヶ月? 二ヶ月しか、練習していないの? その二ヶ月で、どんな練習をどれぐらいしたの?」
「本当に二ヶ月よ。練習内容は、動画サイトを見て、独学で。時間は……学校から帰って、小一時間ぐらいかしら」
「こ、小一時間?」
「さすがに、日が暮れてからの演奏は近所迷惑だもの。気にはしないけど、無駄に反感を買う必要もないでしょ」
全て、事実である。けれども、話を聞いた緒方は……絶句していた。
いや、緒方だけでなく、他の二人も言葉を失くしているのが見えた。でも……嘘は言っていない。
「……作曲は? リズム感に関しては先天的なモノがあったとしても、歌詞や作曲は経験しなければ出来ないと聞くが?」
緒方のその言葉に視線を向ければ、端方が何度も頷いていた……そうか、経験が必要なのか。
「……強いて挙げるなら、夢の中での独奏会かしら?」
こうなったら、お次は何から何まで嘘で塗り固めてしまおう。「……夢の?」意味が分からず訝しんだ様子の3人に、私は頷いて堪えた。
「前から似たような事はあったんだけど、ギターの練習を始めた辺りからは、凄く具体的になったのよ」
それからの私の説明(夢の中の独奏会)を簡潔に述べるのなら、こうだ。
スポットライトのように照らされた光の円の中に立つ私。その私を囲うように並べられた椅子に座る、様々な恰好をした私たち。そこで私は……独奏会を開く。
独奏会では、私は自由だった。『音』が、私の中から溢れていた。出しても出しても枯渇する気配のない、膨大な『音』が私の中からどんどん溢れ出してゆく。
最初は、ただ溢れ出した『音を』吐き出すだけだった。
だが、それが何時の頃からか、『音楽』として様々な形へと姿を変える様になっていた。私が今しがた歌ったのも、その溢れ出した『音楽』の一つに過ぎない。
とまあ……そんな感じな事を、私は事実っぽく伝えた。我ながら何とも胡散臭いというか、これを信じる奴は馬鹿だろうと内心では思っていた……のだが。
「……芦田さんが惚れ込んだ理由が分かったよ。確かに、これだけの膨大な才能を秘めた子を、ただ埋もれさせるのは……もはや、犯罪だな」
(ええ……よくもまあ、こんな話を信じる気になったもんだ……)
まさか、こうまで純粋に信じてもらえるとは思っていなかった。
お前(緒方)、冷静なのは見た目だけじゃねえかと思ったが、よくよく見れば端方と山口の目にも、欠片の疑念の色もない……頭から信じ込んでいるのが、嫌でも分かった。
「――どうだい、凄い逸材だろう? モデルとしてデビューさせるか、それとも子役としてデビューさせるか、迷っていた僕の気持ちも分かるだろう?」
「ああ、痛い程分かる……それじゃあ、さっそく収録に入ろう! 文ちゃん主演の映画だ、歴史に名を残す映画が作れるぞ!」
「え、いきなり? せっかく来たんだから、ちょっと指導してからの方が良いんじゃないか? 俺も参加させてくださいよ、ぜひ、この子の音楽を伸ばしてやりたい」
「そうね、端方さんの言う通り、いきなり大役をやらせる事はないわよ。才能が有るって言っても、まだ磨いていない原石だもの。最初にどの方向に磨くかを決めなくちゃ!」
「おやおや、『演出の怪物』と言われた山口さんを燃え上がらせる子が現れたのって、何時頃だい? 前は、確かハリウッドのあの子だろう?」
「からかうのは無しよ、芦田さん。私の見る目が無かった、それは認める。この子を磨いてやりたい、全身全霊を込めてやりたいって思ったのよ」
……はたして、これで良かったのだろうか。
何やら当人である私を放って物凄い勢いで盛り上がり始めている3人……いや、4人を他所に、私のテンションは……どんどん下がっていた。
罪悪感はないが、この選択が後々にどのような影響が及ぶのか見当すら付かない事に……私は、一抹の不安を覚えずにはいられなかった。
……。
……。
…………そうして、そんなこんなで、更に二ヶ月が過ぎた頃
実は業界では知らぬ者はいない著名人だった3人の全力の後押しもあって、私はあっという間にシンガーソングライターとしてデビューする事になった。
発表する歌は、その時に歌ったモノだ。
とはいえ、ただ発表するわけではない。『俺の記憶』を頼りに補修し、至らぬ所を端方が修正し、最終的には『俺』だけが知っている名曲へと本来の姿に戻したモノであった。
それを、私は日本語バージョンと英語バージョンの二つとして歌い分け、『芦田プロ(公式配信)』とかいう、動画配信サイトに作られた、爺さんのプロダクションが作ったページから、発表された。
公開日程は、2週間。それを過ぎたら有料で、どちらのバージョンも1曲250円、ハイレゾ(要は、高解像度な音源)なら500円という……まあ、そのようになった。
ぶっちゃけてしまえば、私は特に結果に興味はなかった。
売れようが売れまいが、私が欲しいのはあいつらが苦しむ事だ。金が有ればソレへの選択肢が増えるから売れて欲しいという程度で、結局はそれだけであったから。
……まあ、それとは別に、だ。いちおう、ある程度は売れるだろうとは思っていた。
というのも、歌うのが私であるという不確定要素はあるが、数千万枚を売り上げた伝説の曲だ。その歌が持つ『力』は、その程度でどうにかなるモノではない。
動画配信サイトでのCMやポスター告知やネット広告も、ばんばんやったらしく、それらとは別に、爺さんたちは各方面に色々なプッシュも行ったらしい。
だから、まあ、オリコンランキングの上位に食い込めば……御の字だろう。というか、それぐらい売れてくれないと……困るのは爺さんたちだ。
とまあ、私はその程度の感覚でしかなくて。一通りの収録が終わって後は結果を待つだけという段階になった時も、私は普段通りに過ごしていた。
「――やあ、文くん。デビュー曲の評判は、もう聞いたかい?」
そうして、季節が移り変わった頃……その日、ふらりと、爺さんが私の家に様子を見に来た。
「売れるかどうかなんてのを気にするのは私の仕事じゃないわ。なに、貴方……わざわざそれを言う為だけに、日曜日の朝っぱらから押しかけて来たの?」
「いやいや、さすがに僕もそこまで暇じゃないよ」
「その暇じゃない貴方がわざわざ直接来たって事は、相応の何かがあったってことでしょ。それで、何があったの?」
「何がって……本当に知らないのかい? 前から思っていたけど、君はそういう評価に関しては一貫して興味がないみたいだね」
だが、しかし……そんな私ですらも。
「何があったって話じゃないよ。君のデビュー曲、昨夜でネットの再生回数が一億を突破したんだよ。加えて、DL購入数も物凄い勢いで増大している」
「……は?」
「まだ集計が出ていないけど、昨日の時点で既に15億の利益さ。これに広告収入やら何やら入れれば、7,80億は行くし、どんどん上がる。おかげで、半月前からスポンサー依頼の電話が殺到だよ」
「……は?」
「君の意思は尊重する。ただ、モデルとしても俳優としてもタレントとしても、あるいはこのまま歌手として進む道もある。ここで辞めるのは、非常にもったいないと僕は思うね」
「え、は、え……え?」
さすがに、その言葉を呑み込むには……『私たち』ですらも、少しばかりの時間を必要とした。
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