第11話 「なんか黒い未知との遭遇」
バサリと、羽音のような音が。
すぐ後ろで聞こえた。
「うん?」
振り向いて。
咥えていたタバコを、落としてしまった。
それも仕方ないだろう。
――すぐ近くに、“悪魔”が居たのだから。
悪魔……という表現が正しいかはわからない。
ただ、多くの人間はコイツを見たときに悪魔を連想するのではないだろうか?
真っ黒な、影より尚深い闇のような色をした人型。
頭から生える、2本の角も。
背から生える、蝙蝠のような大きな翼も。
ぐねぐねと蠢く、細く長い尾も。
ただただ、黒い。
そして、顔が。
顔が、無かった。
目も、鼻も、口も、何も無い。
のっぺりとした、暗闇の皮膚があるだけだ。
全体的な大きさは……、2mほどか?
いつの間にそこにいたのだろう。
僕と≪バヤール≫の後方、手を伸ばせば触れそうな位置に、長い足を折り曲げて座り込んでいる。
何も読み取れない漆黒の顔面を、こちらに向けて。
……襲い掛かってくるわけでもないようだ。
とりあえず話しかけてみるか。
「なに
しまった。
思わずチンピラのような言葉が口をついて出てしまった。
しかも、目も鼻も口も無い奴に対して言う台詞ではない気がする。
しかし、こちらの暴言に気を悪くした素振りも無い。
ただそこに居るのみだ。
……言葉が理解できないのだろうか?
これは困った。自慢じゃないが僕はコミュ障なんだ。
言葉を話せる相手とも満足に意思疎通ができないというのに、のっぺらぼうとどうコミュニケーションを取れというのか。
手話か? ボディランゲージか? 拳で語り合うか?
≪バヤール≫から降り、向き合ってファイティングポーズをとろうとした僕に反応したのか。
ソレは片腕を上げ、真っ黒な鉤爪のついた、3本ある指の内の1本で僕を指した。
そして。
そのまま腕を横にスライドさせていき、ある方向で止めた。
事務所の玄関の方ではあるが……。
玄関のシャッターを開けろ、という意味だろうか?
……いや、おそらく違うだろう。翼のあるコイツなら、窓から侵入できる。
とすると、その向こうか……?
僕の記憶通りなら、確かそこは。オフィスビルが並ぶ区画の、更に先には。
「学校……? 高校、だったかな……」
黒い悪魔モドキは、ゆっくりと頷いた。
なんだ、こちらの言葉は理解してたのね。
と。
大きな翼を広げて、音も無く。
黒い怪物は空中に浮いた。
激しく羽ばたくわけでもないのに、重力を無視するかのように、怪物はどんどん上昇を続けていく。
支部の事務所と比べて……、3階……4階……5階……。
そこまで見上げた僕は。
――見上げた事を、後悔した。
空が、黒く染められていた。
無数の。
あまりにも無数の、黒い怪物が。
上下に、左右に。大きな弧を描き、小さな円を描き。それぞれが音も無く飛び回っている。
どれだけいるのだろう。何百? 何千? ……いや、何万?
「おいおいおい、マジか」
やがて僕の目の前に居た固体もその膨大な群れの中に混ざり、もう見分けがつかなくなった。
ゆっくりと思い思いに空を飛んでいるそいつらには、文字通り僕はもう眼中に無いのだろう。
しばらく、散々に空でひしめき合った後。
そいつらは。
あっちこっちの方向に。様々な方角に。好きな行き先に。
散り散りに、飛んでいった。
あっという間に、風景が元に戻る。
空には怪物なんておらず。
地上にも、僕と≪バヤール≫しかいない。
夢でも見ていたかのようだ。
悪い夢を。
なんとなく、感傷のようなまるで違うような、そんな感情に浸っていると。
「イヤァァァァァァァ!! 来ないで! 来ないでぇぇぇ!!」
悲鳴が、聞こえる。
方角からして、先程コンビニへ逃げていった2人だろう。
彼女達のせいでせっかくの気分がぶち壊されるのは、これで2度目だ。
ポケットから愛飲のタバコ【black swan】を取り出し、1本咥えてジッポで火を点ける。
有害な煙を深く吸い込んでは、吐き出す。
吸って、吐く。
吸って、吐く。
吸って、吐く。を繰り返し。
ずっと悲鳴は聞こえていたが、3本目を吸い終わる頃には、すっかり静かになっていた。
ようやく喰われたか、それとも逃げおおせたか。戦って勝った、なんて可能性はほぼ無いだろう。
「さて」
これで、ようやく昼食を買いに行ける。
*****
?????のナイトメア☆ガゼット
第11回 『黒い悪魔のような怪物』
角と鉤爪、大きな翼と細長い尾を持つ真っ黒な怪物。先に挙げた点を除けば人間に近い姿と言えなくもない。但し、顔にあたる部分には目、鼻、口などのパーツが存在していない。
無数に存在しており、空を埋め尽くすほどの集団で飛行しているのが目撃されている。
この怪物に関しては調査を続行中であり、続報をお待ちいただきたい。
ワタクシが魔法について一家言あるというのはもうココで書いたかしら? 実はワタクシは悪魔にもそれなりに詳しくてね。
だから、わかるの。あれは所謂、悪魔ではないわね。もっと下等で、従順で、可愛らしいものよ。多分ね。
もし捕まえたら、抱えて空を飛んでくれないかしら? きっと楽しそうだわ。
……ちょっと、何を笑っているの。
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