◆第10章(終章)◆さよなら、ともりーな~「愛と時間」の妖精~

努は芳樹から伝授された「家事マトリックス」と「家事リストラマトリックス」を愛理に伝えると同時に、これまで何もしてやれなかったことを謝った。

愛理は努の口から「つわりは家事なんだ」、「夜泣きをあやすのも共有しよう」という言葉が出てきたことに驚いていた。愛理は男女の意識の違いではなく、身体の作りの違いがあるから、努に育児は任せられないと諦めていたが、話し合うことで男女の溝は限りなく小さくできることを知った。


愛理「ともりーなー!『ともラクメソッド』で努との会話の時間が増えたのはいいんだけどさ、逆に何話せばいいか分かんなくなっちゃって(笑)。良くも悪くも独身時代とは違うのかな。贅沢な悩みだけどね(笑)。それに育児はどうやって『下限』を定めるか、今のうちに知っておきたいのよね。って、あれ、ともりーなどこ?」


ともりーなと出会ってちょうど1年目の朝、ともりーなの姿が見えなくなった。


愛理「まぁ、妖精もたまにはいなくなるよね。有給休暇とかあったりして(笑)。また出てきたら教えてもらえばいいや。そういえばあの子、普段何食べてたんだろ。アプリだから電池か」


しかし、ともりーなは1週間経っても1ヶ月経っても帰ってこない。


愛理「もー聴きたいことたくさんあるのになんでよー。もしかして、もう戻ってこないの?」


アプリを覗いてみたが何の通知もない。アップデートの知らせも届いてない。一瞬不安に思ったが、同時に思った。ともりーなは、もう帰ってこないかもしれない。


愛理「あぁ、もうここからは私たち夫婦で何とかできるってことなのかな。ともりーなはいつも『愛理ちゃんなら大丈夫!』って言ってくれてたよね。仕事も家事も、これからの育児も『下限』を決めればいいんだし、いつでも『下限』を変えたっていいんだしね。私たちは今では、楽をすることで二人の時間を増やす『ラクニスト』だし。夫婦の時間が増えたんだから、今なら努と話し合えるよね。空いた時間は、恋人時代の時みたいに何気ないことを話してればいいだけ。そういう二人の時間を増やしたくて結婚したんだしね。お互いの趣味とかの一人の時間だって大切にしたら、まだまだ時間は欲しいくらい」


ともりーながいなくってから1ヶ月が過ぎようとした時、ともりーなのアプリから通知が届いた。


愛理「あれ、メッセージが来てる。ともりーなからじゃん!」

ともりーなメッセージ「もしもーし!私だよーわ・た・し!ともりーなだよ!元気にしてる?今私は他のお家でまた奥さんを元気づけてるよ♪愛理ちゃんはもう大丈夫かなと思ったから他のお家にいるの」

愛理「もー勝手に行かないでよねー!あれ、画像が2枚あるじゃん。わ、ツーショットじゃーん!いつ撮ってたのよー(笑)。って、ともりーなと私、似てない?ていうか、ほぼ私じゃん。あっ!」


愛理は思い出した。初めてともりーなと会った時に「どこかで会ったことある?」と話しかけていた。初対面とは思えないほどの懐かしさを感じていたのだった。


愛理「え、どういうこと?ともりーなが私で、私がともりーな・・・もしかして、ともりーなは私の心が妖精になったってこと?努ともっと一緒にいたいっていう気持ちを持っていた頃の私?だからともりーなはいつも私に『愛理ちゃん、努くんのことよく考えてるよね』って言ってたのかな」


愛理はともりーなが自分の「愛する人との時間を増やしたい」という根本の気持ちを体現してくれていた存在であることに気づいた。ともりーなは、愛と時間の妖精だったのだ。


愛理「もう一枚の画像はなんだろ。メッセージ付きね」

ともりーなメッセージ「じゃーん!手書きの『下限』カードだよ♪これがあれば毎年一回は必ず努くんと『下限』を見直せるね。新年に見直したりするのにぴったりー(⌯¤̴̶̷̀ω¤̴̶̷́)✧ここまで書いてきた『ともラク』メモが大活躍しちゃうね!ダウンロードして使えば二人のオリジナル『下限』カードもたくさん作れるよ♪でも、手書きで書いちゃったから歪んじゃった(´・-・`)許してー!」

愛理「わー!ともりーないいヤツー!あ、ともりーなは私だから私がいいヤツなのか(笑)。それにしても、字はなかなか味があるわね。あれ、まだ続きあるのね」


ともりーなからのメッセージには「続きを読む」が表示されていた。


ともりーなメッセージ「あ、ちなみに私は有料アプリだから請求しなきゃなの!月額200円×12ヶ月分だから2400円!安―い!あ、税込みだから2592円だ。お間違いなくー!あ、それと愛理ちゃんにも夢レッスンの先生役をお願いするかもだ。だからこれからもよろしくね(*´∪`)」

愛理「有料なのかい!やっぱともりーなは私じゃないわ(笑)!しかも知らない間に家に来ないで~(笑)」


これからも愛理と努には困難が訪れるかもしれない。育児の悩みは家事の悩みよりも大きいだろう。でも、いまの二人は「一番大切なのは二人がご機嫌で会話している時間」と分かっている。そのためには家事の『下限』を共有することでラクをしてお互いのための時間を増やせるようにもなっている。『ラクニスト』になっているのだ。具体的な『ともラクメソッド』も身についた。きっと夫婦ふたりで寄り添っていけるだろう。


1ヶ月後、再びともりーなからメッセージが届いた。


ともりーなメッセージ「愛理ちゃん!いろんな家庭にお世話になったから、お礼してきたんだ!KISAKIさんとこには、水溜りボンドのライブチケットと楽屋招待券。幸さんとこには、ソファーのシミ取りスプレーを365本。楽子さんとこには、唐揚げ365個を置いといたよ♪あと努くんのお父さんにはスタバの抹茶クリームフラペチーノが365回飲めるギフトカードを渡してきた♪お返し大事よねー٩(ˊᗜˋ*)و努くんにはエックスのライブチケットをあげたかったんだけど、海外公演は取れなかったの(*´罒`*)」


 ともりーなは、この1年間で出会ってきた人たちの動画を愛理に送っていた。


KISAKI「ゆうとー!水溜りボンドに会いに行けるわよ!」

ゆうと「やったー!ママも一緒に写真撮ろうね♪」


幸「えー誰よー!?もうシミ取りスプレーなんて使わないわよー!」

宏朗「メルカリに出品だ!サッカー日本代表のチケット代を稼ぐぞ!」


楽子「満ー!明日からおかずはしばらく唐揚げね!」

満「うわ、お隣さんに配るか(笑)」


芳樹「む、これは努の仕業か?フラッペ、チー。日本語で書け」

留津「抹茶なら身体にいいから良かったわ♪」

芳樹「ん?留津の声が聞こえたような。まぁ、留津に供えといてやるか」


努「『厳選なる抽選を行った結果、残念ながら今回はチケットをご用意することができませんでした』、だと・・・?俺の思いが届かないはずがない・・・」


愛理「やりすぎよー!お前は上限を知れ!」


ともりーな「いいことしちゃった~(*´∪`)」


~おわり~

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