◆第6章-1◆いつから間違えたんだろう?『下限』を決めるベストタイミング

家事の『下限』設定と『ともラク』メソッドのおかげで、愛理と努は二人で過ごす時間を以前よりも確保できるようになっていた。余裕を取り戻したこともあって、愛理にはふと疑問が湧いてきた。それは「結婚前にもあんなに仕事と家事のことを考えていたのに、なんで努に話し忘れてたんだろう」ということだった。そのことをともりーなに話すと、思い出のあの場所に連れて行ってくれた。


ともりーな「なんか今日は楽しそうだね♪」

愛理「ねえ、聞いて。次の日曜日に努と山登り行くことになったのよ」

ともりーな「えー!私も登りたーい!」

愛理「あなたは羽があるんだから登んなくていいでしょ(笑)。それにさ、最近また努と話ができるようになってきたんだ。でも、努の仕事が急に入る可能性があるんだよね」

ともりーな「そしたら私が努くんの代わりに行くね♪」

愛理「努が行かないなら行かないわよー(笑)。でも行けなくなったら、マッサージしてもらうっていう『下限』も約束したから大丈夫」


今では二人の共通の趣味であった山登りの計画も立てられるほどになった。会話する時間を取り戻しつつある二人は、仕事は相変わらず忙しいながらも穏やかな時間も過ごせている。『ラクニスト』としての道を着々と歩み始めているのだ。


愛理「ほんと、家事の下限を決められるようになって、私たちはなんとか持ち直したわよね。でもさ、事前に問題を防げたら、お互いにこんなに辛い思いをしなくてよかった気がするんだよね」

ともりーな「かしこーい!問題は発生する前に防ぐのね。でも回り道も大事よね♪」

愛理「しなくていい苦労ならしたくないわよ(笑)。でも私、共働きのことは結婚する前からすごい考えていたのよね。家事の分担どうしようとか。それこそ、どれくらいの頻度で掃除するかとかも考えていたのよ」

ともりーな「忘れちゃったのかなー?」

愛理「うん、忘れっちゃんだよね。なんで忘れっちゃったんだろう」

ともりーな「そしたら、原因を探しにいく?」

愛理「え、過去にもワープできたりするの?」

ともりーな「できるよー!だって妖精だもん♪ ちょっと待ってね。検索してみる!」

愛理「え、過去検索もできるの?」

ともりーな「妖精は何でもできるの(*´罒`*)あ、行きたいとこ見つかった!じゃー行くよ、ともりーな♪」

愛理「どこ連れてくのー!?」


目の前が真っ暗になり次に目を覚ますと、あるフレンチレストランにいた。そこは愛理と努が交際をスタートさせて3回目のクリスマスを祝った場所だった。


愛理「あ、ここ『トモン・ド・ラクー』じゃん。てことは…」

ともりーな「そう、プロポーズの日に戻ってきちゃいました(*´∪`)」

 

 二人は、半年前の愛理と努のテーブルの目の前まで飛んで行った。ともりーなは、何やらキョロキョロしている。


ともりーな「すごーい!あの人が食べてる鴨肉おいしそー!食べたーい!」

愛理「高そうなのに飛びつかないの(笑)」


 愛理と努のテーブルには、最後のデザート・ケーキが置かれようとしていた。大きな白い皿に、濃厚なチョコレートケーキがお城のように積み上げられている。


過去の努「渡したいものがあるんだ」

過去の愛理「え、なあに?」


 努が、包装紙に包まれた細長い箱を差し出してきた。


ともりーな「あ、これもしかして? いよいよ…」

愛理「って思うでしょう? 私もそう思ったの」


 過去の愛理は、包装紙が破れないようにゆっくりとめくった。


過去の愛理「ねえ、なにこれ?」

過去の努「見ての通り、マークシートを早く塗れる『超高速鉛筆』だよ」

過去の愛理「やだ。丁寧に包んでいるから、何かと思ったわよ」


ともりーな「あの鉛筆、痛いからきらーい。あ、何のことか分からない人は一章を見てね♪」

愛理「懐かしいわね。投げてぶつけちゃってごめんね(笑)」


 努の目の前で愛理は、うつむきはじめた。その表情を察してか、努がたたみかけるように話し始めた。


過去の努「これすごいんだよ!マークシートを一瞬に塗りつぶせる鉛筆なんだ。愛理も会社で採用部のリーダーに昇進して、マネージャー試験が来年あるって言ってたよね。少しでも応援できないかなと思って」

過去の愛理「へー。仕事に理解あるサンタさんなんだ・・・」

過去の努「一瞬で塗れるから他の問題に時間を使えるようになるね!」


 愛理は鉛筆を見つめたまま、力なく「ありがとう」と答えた。


愛理「ありがとうの一言だけで精一杯だったわ~。期待した自分が恥ずかしいし、期待させる努にも腹が立ってたし(笑)」

ともりーな「私も鉛筆だけだったら怒って帰っちゃうかも(*´罒`*)」


 最後のチョコレートケーキを食べ終わり、愛理が帰る準備をし始めた。その時、先程デザートを持ってきたウェイターがやってきた。


ウェイター「こちら、最後のメニューとなります」

 

 その皿には、鳥の丸焼きでも入ってそうな大きな銀のフタがされていた。


過去の愛理「え、デザートはさっきいただきました。違う席だと思います」


 努は、笑って答えた。


過去の努「いいから、開けてみて」


 愛理はフタをヒョイっと取った。そこには小さな立方体の銀の箱が置かれていた。


過去の愛理「え、箱?こんな小さい箱の中にデザートなんて入る?ミニケーキ的な?」

過去の努「まぁ、いいからいいから」

 

 箱をパカっとあけると、そこには愛理が一番ほしいものが入っていた。


過去の愛理「・・・ねえ、覚えていてくれたの?」

過去の努「当たり前だよ」


 そう言って、努が指輪に手を伸ばし、愛理の指にそうっとはめた。


過去の努「愛理、俺と結婚してくれ」


 愛理の瞳から宝石のような涙がこぼれた。


過去の愛理「うぅ~~~(泣)」

過去の努「え、なになに?どうしたの?」

過去の愛理「だってびっくりして、、、ほんとに変なペンだけかと思ってたの・・・」

過去の努「あれはダミーだね。さすがにあれがプレゼントだと怒られるでしょ(笑)。愛理と俺のスーツを買いに行った時に指輪も立ち見したじゃん?その時に『クロスのデザインは二人の絆が解けないようにって意味なんだってね』って言ってたの思い出してね」

過去の愛理「あら、『エックスってことだよね!』って違う意味で盛り上がってたのに(笑)」

過去の努「ライブ行きたいなーって。冗談だよ(笑)。で、愛理。お返事は?」


 愛理は、キラリと光るダイヤモンドの指をのばし、彼の手を握った。


 過去の愛理「これから、よろしくお願いします」

 

 うっとりとプロポーズを見ていた愛理は、「あっ!」っと大きな声を出した。場面はお互いの仕事に差し掛かっていた時だった。


ともりーな「愛理ちゃん、どうしたの!?びっくりした~」

愛理「そう、ここだ!プロポーズされたら、共働きの話をしようと思ってたのよ。このサプライズに感動しすぎて、話し合うの忘れちゃったんだ。でも、ベストタイミングはプロポーズの時だったんだよね」

ともりーな「忘れちゃうよね~」

愛理「舞い上がっちゃうよね。でも、今話し合えて良かったよね。遅くなかったんだ」

ともりーな「セカンドタイミングってことね!」

愛理「あら、うまいこと言うわね(笑)。そうなの、プロポーズの時に話し合えたら、それが一番楽だったのよね。でも今話し合えて、仲良くなれたからいっか」

ともりーな「全然遅くないのだー٩(ˊᗜˋ*)و」

愛理「帰ったら努にも話さなきゃね」


※はい、プロポーズのお話でした~!変な鉛筆で下げてから、本命の指輪で上げる。ハイリスク・ハイリターンな高度なテクニックを見せていた努くんでした。プロポーズは成功したけど、この時のインパクトが多すぎて話し合いはできなかったみたいね(*´罒`*)明日はこの時に話すと良かったことを愛理ちゃんがまとめてくれるよ。お楽しみに~♪


あ、レビューやコメント、★をもらえるととても嬉しいです!ともりーなは褒められて伸びるタイプなのです(*´罒`*)

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