◆第4章-2◆食器洗わないの?~幸家庭がポテトの袋と染付きソファーを「放置する理由」~
食器もお菓子の袋も放ったらかしの部屋なのに、会話も笑顔も途切れない幸と宏朗。一方で一生懸命きれいな部屋を保っているのに会話も笑顔も減っている愛理と努。その違いはどこにあるのかを知るために、愛理は夢の中で幸に教えてもらうために、ともりーなの「夢レッスン」の力を借りることにした。
愛理「ここどこ?ホワイトボードとかあるし、オフィスっぽいけど」
愛理は気がつくと幸の家とは違う場所にいた。
ともりーな「共働きが楽になる秘密を教えてもらう『ともラクルーム』だよ♪そこのソファーでちょっと待っててね!」
愛理「妻と夫が共に『楽する』と共働きが『楽になる』の二つの意味があるのね(笑)。このソファーさっきのじゃない?味噌汁の染み残ってるし・・・」
ともりーな「幸先生そろそろ来るみたい!」
愛理「あの人、先生だったの?」
その時、勢いよく扉が開いて幸が入ってきた。
幸「(ガラッ)はい、こんばんはー!聞きたいことあるって言われたから来たんだけど、あなたたち誰?ていうか、その格好寒そう。肩出しすぎじゃない?」
愛理は気にしていた妖精の格好を指摘されてしまい、どうごまかそうか慌てた。一方でともりーなは気にせずおしゃべりを始める。どうやら妖精の格好をさせていたのは、ともりーなの趣味だったようだ。
愛理「最近冷えますよねーあはは。(ねえ、この格好って絶対しなきゃいけないの?)」
ともりーな「はい、私たちは妖精です♪(あ、別にしなくてもいいよ。でも似合ってるよ♪)」
愛理「(しなくていいんだ!普通の格好で行かせてよね!これって名前言っていいやつ?)」
ともりーな「(大丈夫だよ!夢の中だから覚えてないし♪)」
愛理「(ならいっか)あの、私は愛理っていいます。ちょっと聞きにくいんですけど、あのお皿っていつも放ったらかしなんですか?」
幸「んー半々くらいかなー。今日は大事なサッカーの試合があったしね」
愛理「でも前半と後半の間の休憩時間で、洗えましたよね?」
幸「え?洗い物は私の担当じゃないから。コロちゃんの仕事だし」
愛理「でも旦那さん、洗ってなかったですよね?」
幸「お風呂入ってたら、そりゃー洗えないわよ(笑)」
愛理「じゃなくって、、、旦那さんが洗わないなら幸さんが洗わないと食器溜まっちゃいませんか?」
幸「コロちゃんはその日に洗えない場合は、朝に洗うことになってるのよ」
食器を溜めておくことに何の罪悪感も感じていない幸。しかし、愛理にとって食器洗いは、ただの片付けではない。臭いが出ることを防ぐものでもある。家の香りを良い状態に保つことを重視していたのだ。
愛理「水に浸けておくだけだったら臭うじゃないですか」
幸「だから、うちはつけ置き用洗剤を使ってるのよ」
愛理「頑固な汚れの時はすぐ洗わないといけなくないですか?特に調理器具なんかにつきますよね」
幸「あーうちもそれで喧嘩になったことあったのよ!最初はコロちゃんが洗い物担当だったんだけど、水垢とか洗い残しが多くてね。結局また私が洗うことになってイライラしてたのよ。で、私も資格試験の勉強を仕事から帰ってからしつつ、洗い物も続けるなんて生活をしてたら体調を崩しちゃったのよね。恥ずかしいけど(笑)」
愛理「え、とても仕事熱心なんですね。洗い物ってやり始めると大変ですよねー!」
ポテチを見ながら寝そべってサッカーを見る幸からは、仕事をしている様子は想像できなかった愛理だった。だが、幸が資格勉強も頑張っていることを知り、少しずつ親近感を感じるようになった。愛理も昇進試験の勉強をしていたからだ。
幸「そうなのよー!洗い物って、後から後から食器が追加されるから、一度に終わらせられないのよね。しかも、そもそもきれいな仕事じゃないじゃない?手が荒れるし(笑)」
愛理「こすったりするのにも力がいりますよね。本当は男性にやってもらいたいですよね(笑)」
幸「ならやってもらったらいいんじゃない?」
愛理「え、でも彼は家事は得意じゃないし、疲れて帰ってきてるし」
愛理は幸の一言に驚いた。これまで夫に家事をしてもらうという発想がなかったのだ。専業主婦の母に育てられた愛理にとって、家事は妻がするものだと思いこんでいたのだ。
幸「お皿を洗うだけのことに得意も不得意もないわよ。それに、愛理さんの家も共働きなんでしょ?疲れて帰ってくるのは同じじゃない?共働きなんだから、二人とも楽しなきゃよ」
ともりーな「ともラクだ!幸さんのともラクメソッド教えてください!」
急に大きな声を出したともりーな。細かい話は聞いていないが、話の核心に迫ると目を覚ますようだ。
愛理「あれ、起きてたんだ(笑)。でも、ほんと知りたいです。私も疲れているので、努にイライラしちゃうし。それでも、きれいな家で彼に気持ちよく過ごしてほしいというのは本音なんです」
幸「でも愛理さんさ、食器が一晩そのままになってるのがそんなに嫌なの?」
愛理「え?いや、私は別にいいんですけど。努がかわいそうかなって思ってるんです」
幸「そのことって二人で話し合った?」
愛理「いえ、特には。結婚したら当たり前にやるべきなのかなって。私の母も洗い物はその日に終わらせていましたし」
またも愛理は、「家事=妻が中心にやること」という考えを揺さぶられた。幸の何気ない一言でm努と皿洗いの頻度やどう思っているかを何も話し合っていないことに気がついた。
ともりーな「愛理ちゃん、お母さんのこと大切にするよね♪」
幸「それは素敵なことだけど、お母さんの家とあなたの家は別物よ。てことは、努さんが食器は一晩おいてもいいって言ったら、急いでその日中に洗い物しなくて良くない?まず話し合うことから始めたらどう?」
愛理「確かにですね、、、」
幸「私たちは、結婚する前に家事の話はしてたわよ。当然、その中に洗い物も含まれていたわ」
愛理「何を話し合ったんですか?」
幸「シンプルよ。どこまでなら気分が楽な状態でいられるのかっていう『下限』を決めてたの」
愛理にとっては、幸夫婦が皿洗いをその日中にせずに適当に過ごしている様子は、ただの性格によるものだと思っていた。しかし、そこには二人の話し合いから導かれた『下限』という教訓があったのだ。
愛理「『下限』、ですか?」
幸「そうそう、人にはそれぞれ『ここまでやれば幸せよね』っていうラインがあるのよ。例えばお皿洗いなら、何日間なら食器が溜まっててもいいのかとか。デートでもファミレスとか公園で幸せな人っているじゃない?あれよ」
愛理「あ、うちの夫もファミレスデートで満足できるタイプです。ドリンクバー好きですし(笑)。でも、そもそも家ってきれいにしなきゃいけないものなんじゃないんですか?」
幸「それって誰が決めたの?」
愛理「いやぁ、常識というか、、、そういうものじゃないですか?」
幸「でもあなた、家をきれいにしようって片付けを頑張ってるのに、旦那さんに不満が溜まってるんでしょ?」
愛理「確かに。。。努に対して家事のことばっかり言っちゃってる。『早く掃除してよ』とか『また私が洗えばいいんでしょ?』とか」
ともりーな「愛理ちゃんは頑張り屋さんで、努くんはのんびり屋さんなところあるしね♪」
幸「うちも最初は私が几帳面過ぎちゃってね。コロちゃんは洗い残しが多いのよ!私が二度洗いしてたし、文句しかなかったわ(笑)。それでコロちゃんも『二回も洗うならお前が最初からやればいいんじゃない?』とか言ってくるし。あの時は大喧嘩だったわー。『全部あんたのせいで洗ってんのよ!』って(笑)。イライラしすぎて胃に穴が空いて、2~3日入院したわよ」
愛理は驚いた。自分とは正反対で適当な性格だと思っていた幸に、家事を頑張りすぎていた過去があったのだ。愛理は幸に対して自分に似たものがあると感じ始めている。
愛理「え、このままだと私も入院コース行っちゃう?」
ともりーな「えー愛理ちゃんがいないと寂しい(´・-・`)努くんも心配しちゃうよ・・・」
幸「病院のベッドの上で考えたのよね。体壊してまで家事して、欲しかったものって何だったんだろうって」
愛理「確かに、、、なんでそこまで家事しなきゃって思ってるんだろう」
幸「だからコロちゃんと話し合ったのよ。その時にコロちゃんが『家がモデルルームみたいにきれいじゃなくても、インスタ映えしなくても、君が元気ならそれでいいんだよ』って言ってくれたの。それで私たち夫婦が思うきれいの『下限』について話し合えるようになったのよね」
愛理「そっか!きれいかどうかなんて、自分たちが決めればいいんだ」
愛理は「きれいとは主観」ということに気がついた。これまでは誰もが認める「客観的なきれいの基準」があると思っていたのだ。それをクリアするために一生懸命になっていた結果、努との会話は冷たいものになっていた。
幸「そうそう!愛理さんにとっては私たちの家は汚いかもしれないけど、私たちにとってはきれいなの。これでもね(笑)。でもそのおかげで趣味のサッカーの試合も、また見れるようになったしね。お互いが一人になる時間も作れるようになったし。夫婦とはいえね、人とずっと一緒にいるのは疲れるから、誰のことも考えない時間は大切ね」
愛理「確かに私もフラッとカフェに行って、ぼーっとしたいです。でも、味噌汁の染みが残ってるの嫌じゃないですか?」
幸「あれね、ビニール製だから拭けばすぐ取れるのよ」
ともりーな「『ともラク』メソッドだー!汚れてもいいようにしちゃうのね♪」
幸「でもね、その前のソファーは布製だったのよ。だから汚れが落ちなくてね、よく喧嘩になっちゃったの。「ソファーでご飯食べないでよって言ったじゃん!」って。それでビニール製に買い替えたのよね。人を責めるんじゃなくて、仕組みを改善するといいのよ」
幸と宏朗は『下限』の考え方を基に、お互いを変えることをしない。仕組みを作ることに集中する『ともラク』メソッドを実践していたのだ。妻と夫のどちらかの努力で問題を解決しようとすると、どうしても頑張り屋であったり几帳面な方に負担が偏ってしまう。時には議論が得意な方が、片方を言い負かしてしまうこともある。そんな不平等状態をつくらないためには、仕組みをつくることに二人の話し合いの時間を割くべきのようだ。
ともりーな「あ、そろそろ『夢レッスン』の時間が終わっちゃう!」
愛理「そういえばリミットあったわね(笑)!まずは努ときれいの『下限』について話し合ってみます!幸さん、ありがとうございました!」
幸「あなたたちも楽するのよ~『ラクニスト』になりましょ~」
「夢レッスン」が終わった次の日も、幸はぼんやりとレッスンのことを覚えていた。きれいの『下限』について宏朗と話し合ったこと、そのきっかけとなった入院のことなどの懐かしい思い出が蘇った。今では二人とも、完璧よりも楽に楽しく暮らすことを重視する『ラクニスト』になっている。
幸「おはよー。あら、洗ってくれてるのね。ありがとー」
宏朗「次の日に洗えばいいから楽だよね。俺、今日は午後から仕事だし」
幸「そうそう、昨日変な夢見たの!妖精と妖精の格好した人間に私たちの家事のこといろいろ聞かれたの(笑)」
宏朗「なにそれー!ポテチの食べ過ぎかな(笑)」
幸「コロちゃんもポテチ食べたから妖精出てくるかもよ~!」
宏朗「楽しみー(笑)!」
幸「あら、そんな趣味があったのね(笑)。あ、早く準備しなきゃ!」
宏朗「通勤も楽できないかなー」
「夢レッスン」は時間にしてわずか15分程度であったが、愛理にとっては有意義な時間だった。いつもピカピカの台所を保ってくれた母を尊敬するあまり、気がつけば「私も母のようにがんばらねば」と思っていた。しかし、母は専業主婦世帯で愛理は共働き世帯。時代も違えば価値観も違う。母のように生きる必要はないのだ。義務感から解放された愛理は、今では努ときれいの『下限』について話し合うことに前向きになっている。
※幸さんが愛理ちゃんと似ていてよかったー!「あの人はあの人よ。学ぶことはないわ」とか言い出しそうだったし(*´罒`*)明日は愛理ちゃんがともラクメソッドをまとめるよ。短いメモもつくって「ふとした時に思い出せる仕組み」もつくったみたい。さすが採用担当、仕組みづくりが上手ね♪採用の仕事、知らないけどね~(*´罒`*)
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