第3話 回って回って歌うアホ
最初に着いたんは、牧場みたいなトコでしたね。
牛っぽいのとか、馬っぽいのとかおって。結構広い畑があって。
そこで第一村人発見すわ。気の良さそーなオッチャンやったすね。で、すぐアイツが話し掛けて。
「オッチャン、なんか手伝う事ない?」っつーて。
いきなりでオッチャン面食らってたけど、言葉は通じましたね。
なんや、お前ら?、旅人かいな?って。今、収穫期やから仕事はナンボでもあるけど、う〜ん、ってちょっと考えてて。そりゃ、イキナリ怪しい奴らが手伝うゆーても困るやろ?って思てたんすけど、「ええよ」、って。
ええんかいな⁉ って、軽さとゆーか、人の良さにビックリすわ。
野菜の収穫手伝どうてくれって。息子呼んで来て、コイツに聞いてくれって。その息子がだいだい、こっちでゆー中坊くらいの生意気そ~なヤツでね。反抗期真っ盛りって感じで。コッチ来いやってアゴで指示っすわ。このガキャ〜って思たけど、まあ、コッチは大人やしね。そんなに変わらんけど。
イモみたいなん掘ってカゴ入れてって、作業なんやけど、これが結構大変で。ゴボっと繋がったやつ掘るんやけど、途中で根っこがブチブチ切れてね。
その度、息子がチッとか舌打ちしやがってね。まあ、この息子が常時生意気で、仕事も嫌々やってる風なんすよね。んでも、真面目は真面目なんすよね。面倒くさい事も手ぇ抜かんし。
収穫の後は、牛と馬の世話があって。コッチの方は俺ら得意でしたね。
なんせ、ずーっとケモノらと接してきたから。いきなりやってもね、牛と馬も言う事聞いてくれるんすわ。それで息子もちょっとだけ見直したみたいで。
この息子、畑仕事とかは嫌々なんすけど、動物の世話は結構好きそーなんすよ。世話してる時の顔がね、優しい、無邪気な顔してるんすわ。乗馬も上手いんで、お前カウボーイみたいやなってアイツがゆーたけど、意味はわからんかったみたいすね。で、そっから息子の事はカウ坊って呼ぶよーになって。
1日仕事手伝って、晩飯ご馳走になって、納屋あてがってもろて、そこで休んでたら、カウ坊がふらっと来て、旅してるんやったら、他の国の事とか教えてくれ、ってゆーてきて。いや、俺ら他の国とか知らんけど、山とか森の事やったら、って軽く話ししたって。
わりと、ちゃんと話したけど、まあ、半分以上、嘘やと思われたっぽいすね。そら、俺ら自身、信じられんよーな経験やったし。カウ坊は、フンとか、ハンとか、馬鹿にしたよーな相づちうってたけど、結構楽しんでる風でしたわ。
それから牧場の手伝いは1週間くらいやらせてもろて。カウ坊は仕事中は相変わらず生意気なんやけど、夜になったら納屋に来て、俺らの話し嬉しそうに聞いて。そんで、だんだん打ち解けてきて。
ある晩、カウ坊が、自分もここ出て他の国見て回りたいねん、って打ち明けてきて。この仕事嫌いか?って聞いたら、いや嫌いじゃない、むしる動物の世話は好きやって。でも、違う事もやってみたいって。ずーっとここで一生終えたない、って。それでアイツが珍しくちよっと考えて、ゆーたんす。
人生に偶然はない、すべて必然や、と。俺らとカウ坊が会うたんも必然なんや、だから言わしてもらう。自分には責任持って、他人には感謝の気持ち持って生きとったら大概間違いない。後は好きなよーに生きていけ、って。
そしたらカウ坊、フン、無職のくせにエラソーに、ってゆーてたけど、結構響いたもんがあったみたいでしたね。
そんなこんなで、牧場の仕事も、畑仕事も一段落して。収穫した野菜やらを町に売りに行く事になって。ああ、そんなら俺らも一緒に町まで行って、野菜売って、そこでそのまま町に残ろか、ってなって。
定期的に売りに行って、割と売れ残ったりするから、このくらい持って行こか、って時にアイツが、いや積めるだけ積め、俺らが全部捌くからって。
オッチャンにそら無理やわ、って言われたけど、俺も、大丈夫やからまかしてくれってゆーて、納得してもろて。
町へはカウ坊と俺らで行く事にして。で、荷物満杯にした馬車で町へ向かったんすわ。
町は想像してたより大きかったすね。簡単に言えば、中世のヨーロッパ風で。商店街ってゆーか、メイン通りみたいなトコで両側に店が並んでて、わりと活気もあって。俺らが場所キープできたんは、ちょっと外れた場所でね。大量の野菜やら並べたものの、人通りもまばらで、何より、カウ坊が、萎縮しててね。いつもはオヤジさんについてきてただけで、1人ではやった事ないらしくて。
ほんじゃま、俺らが手助けしよかと、久しぶりにギター出して。牧場の仕事してた時は、敢えてギターに触らんかったんすよね。まあ、仕事キツくて、触るんもしんどかったってのもあったけど
客引きのために、ひさびさライブ開始すわ。
なんや?なんや?って感じで、すぐ人集まりました。集めるだけやなく、買ってもらわなあかんからね、アイツが即興で野菜の歌、作ったり、歌ったり。いつの間にか大盛り上がりで、野菜もバンバン売れていって。
気がついたら完売してました。カウ坊が、そらもう仰天してましたね。
こんなに売れた事ないのにって。いやそれより、あの音なんなん?って。
あんたらひょっとして、とんでもない人なんちゃうん?って。
今頃、気付いたんかい?って、二人でニヤっとして。
で、カウ坊が、野菜完売したからこれで帰る、ホンマに、ありがとうって照れながら言って、いつか必ず旅にでるから、どっかで会うた時は、音楽教えてくれって。俺らも、ええよ、コッチこそありがとう、またなって。
そんでカウ坊は帰って行ったんす。
そんでこれからどーすっかなぁ、と。
お金無かったしね。カウ坊が売上から報酬渡そーとしてくれたんやけど、俺らカッコつけて、要らんから全部持って帰れってゆーてもたんすよね。
んでも、その心配はすぐ無くなったすね。市場の人が声掛けてくれて。
まあ、客取られた人らなんやけど、今度はコッチ手伝どーてくれや、って
皆、人がええんすわ。陽気で人情味深い人らでね。
ライブで人集めやら、店の手伝いやらやって、残りもんやらいろいろ差し入れもろて。夜は夜でね、市場の人らが酒場みたいなトコ紹介してくれて、そこでもライブして。酒場はちょっと荒々しい雰囲気で、最初は野次られたりしたけど、すぐ俺らの演奏で黙らせてね、最終的には皆んなノリノリで盛り上がって。
そんな生活が何日か続いて。日に日に人が増えていくんすよね。
市場でも酒場でも。演奏いい、元気出る、怪我も癒やす、ってどんどん評判になって。
ある日、なんか上等な服着た人らが訪ねてきて。この国の領主の使いとかで、ぜひ城に招待したい、と。まあ、ちょっとビックリしたけどね。
勲章でもくれるんかね?まあくれるもんなら貰っとこーや、ってどこのビー○ルズやねん?っつって。
で、城に行ったらね、結構ちゃんとした城なんすよ、これがまた。
領主ってか、この国の王様なんすけどね、部屋に通されて。
マンガみたいな椅子に座った、マンガみたいな王様がおるかと思とったら、
意外や、上品な物腰柔らかいおじいさんでね。
あなた方の評判はここまで届いてます、って。いや、俺らなんかに丁寧に話してくれるんすよね。
出来れば聞かせて貰えませんか?って。俺らも、はい喜んで、って何曲か演って。
終わったら、スタンディングでね、拍手されて、評判より素晴らしいって。
お付きの人に金貨の入った袋持ってこさせて、
ぜひ、その素晴らしい音楽を国中の人に聴かせて、元気にさせて欲しい、って。その為に、このお金を使って下さい、って。
ああ、この人は自分の為より、民の事考えてるんやなぁってわかって。
もとより、俺らもアチコチ回るつもりやったから、ふたつ返事で引き受けて。
それからは二人て歩いたり、馬車乗ったり、船乗ったりして、行く先々でライブして。国っていってもね、そんなにデカくないんす。コッチでゆーところの、市とかぐらいで。県まではいかんくらいっすね。
せやから、俺らの事はあっとゆー間に、国中に広がったと思いますね。
半月くらいでかなり回れましたね。んで、一旦報告に行こか、って城に戻って。王様は相変わらず優しいてね。俺らがアチコチ行ったこと報告したら、スゴイ喜んでくれて。この国の人らね、みんなお人好しで親切なんやけど、多分、この王様の人柄も影響しとるんやろなぁって思いましたわ。
そんでね、大臣の1人から提案があるみたいやから、聞いてくれますか、って言われて。ああ、いいすよ、って。
で、話し聞いたんすけど、俺らの噂がね、近隣の国にも流れてるらしくて。
国の名前、発音しにくくてあんまし覚えてないんで、仮に、今いるのがイチの国。その両隣が二の国、三の国としますね。
今いる一の国を標準って考えたら、二の国はちょっと小さくてあんまり豊かやないんす。逆に三の国は大きいてかなり豊かなんすね。
で、その大臣がゆーには、小さいニの国が今元気ないから、俺らに来て欲しいって、言ってきたそーで。王様も、できたら助けてあげて下さい、ってゆーんで、じや、行きますわってなって。
次の日、一の国の人に送ってもらってね、ニの国に着いたんす。
ニの国の印象はね、確かに活気がない感じで、生活も豊かやないんすね。
そんな村とか見てから、王宮に行ったらね、そんなに貧相やないんすよ。いや、むしろ一の国とどっこいくらいきらびやかなんすね。なんか、王族と庶民でかなり格差あるなぁって思て。
で、ニの国の王様に会ったんすけど、笑顔で歓迎ししてくれたけどね、目はわろてないっつーか。なんか冷たい目でね。 喋り方もちょっと上から目線で。ムスカ知ってます? ラピュタの。あんな感じっすわ。
ちょっと気になったけどね、まあ来た以上は出来る限りの事はやっていこ、と。
さっそく町に出てね、ライブやったんすけど、ここの人達、かなり警戒心強ーてね、なんか空回りする感じで。これは初めての経験やったすね。ここまでノってけえへんのって。たぶんね、皆んなお腹空かしてるんやないかなぁ、って思うんすよ。生活でいっぱいでね、満足に食えんかったら、そらライブでノるとか、そんな場合やないと思うしね。
それでもね、音楽は腹の足しにはならんけど、何かの癒やしになると思て、
二人頑張って演奏して。反応してくれる人、喜んでくれる人はそこそこおるんでね。この国でもアッチコッチ回って、ライブに励んだんす。
俺らの音楽は誰でも元気にするんやって思てたけど、それは思い上がりやったすね。貧困ってのは俺らではどうしよーもないからね。怪我とか病気は癒せたから、それで感謝されて、逆にこっちが元気もろたって感じでしたね。
そんなある日ね、一の国から来たって商人にどえらい事、聞いたんす。
一の国が三の国に攻め込まれたって……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます