③ 見回りの使命

 俺たちは、人々の安寧を願うもの同士の集まりだ。

 最初は、そうやって集まった人間で見回りを結成した。

 懐かしいが、最初はパトロールして、喧嘩を止めたりしていたものだ。


「それにしても、何もできないとは情けねぇ……」


 東、南、そして西と来たからには、次は北で辻斬りが現れるかもしれない。

 そんな浅はかな考えで、北のパトロールを強化しているが、どうすることも出来ない歯がゆさだけが日に日に強まる。

 そもそも、俺たちは発生した時間を片付ける事に関しては右に出る者はいないと思っているが、事件を未然に未然に防ぐことに関しては素人だ。


「何というか、こうして警戒する分には、あまりにも平和すぎて時間の真っ最中であることを忘れてしまうな……」

「お茶持ってきました!」


 半分意識が別の場所に行っていたことに気づき、頬を強めに叩く。

 そして、コイツがお茶を持ってくるなどという気の利いた行為ができるとは思えねぇ。


「おい……そのお茶はどっから持ってきた?」

「そこの茶屋っす!」

「茶屋?」


 指差す先には、こじんまりとした茶屋が佇んでいる。

 こんな場所に休めるところがあったのか。

 そう思ってしまったが、いかんいかん、今は職務中だ。

 どちらにせよ、休むことはできない。


「ほぉ、ご苦労なことだな」


 聞き覚えのある声にイラッとしながら、声のした方向を睨む。

 そこには、茶屋に座ってお茶を啜るお姫様の姿が見える。


「おぅおぅ、いいご身分だな。姫さんよ」

「仕事の合間のひと時だ。羨ましいか?」


 勝ち誇ったような顔はいつものことだが、それにしても鬱陶しい。

 俺はとことん姫さんとは相性が悪いようだ。


「今、この国が大変だって時に、姫さんは何してんだ?」

「国の一大事だからこそ、腹ごしらえは大切だ」

「ふざけんな。もう3人も犠牲になってんだぞ!」

「3人とも我が国の人間ではないがな」


 姫さんは自国を第一に考える人だ。

 だからこそ、今のところ国民への被害は軽いということなのだろう。

 だが、次の被害者が自国民の可能性は大いにある。

 やっぱり、姫さんとはソリが合わねぇな。


「で、腹ごしらえでも何でもいいですが、ここは俺たちが警戒してるんで、立ち去ってくれませんかね?」

「残念だな無理なお願いだな。私たちも此処に用事がある」

「あぁ?」

「井戸の幽霊退治に行くところだ」


 はぁ?

 話してるだけでイライラしてくる。

 何が幽霊退治だ。

 そのまま呪われてしまえ。


「では、行こうか。少年」

「あっ、はい! 見回りの皆さんも、お仕事お疲れ様です!」

「おぅ! そっちも気をつけろよ、青少年」

「はい!」


 ったく……物騒だってのに、姫さんを連れ歩くなんて、正気の沙汰じゃねぇぞ。

 いつものことだし、姫さんの方が連れ回してるんだろうなぁ。

 まぁ……俺たちが必ず解決してみせるがな。


「ん? なぁ、あれは何だ?」

「知らないんすか? 世界的なパフォーマー集団"Suns"の公演ポスターっす!」

「詳しいな」

「キーホルダーを持ってるくらいのファンっすから!」


 コイツは、こんなチャラチャラしたもんを持ってんのか……

 というか、パフォーマー集団って……そんなんで生計たてられんのか?


「そこの掲示板に色々な催しについて、予告されてるっす!」

「そんなシステムいつできたんだ?」

「1週間くらい前っすかね〜。誰かが置いてったのが始まりっす!」


 確かに便利だが、誰が置いたんだ?

 許可なく置くのは大丈夫なのだろうか?

 まぁ、あの姫さんのことだから、「構わん。どうでもいい」って言うんだろな……


「ん? コイツは……予告状?」

「あぁ!? それって、最近話題の大泥棒のじゃないっすか!!」

「何だそりゃ?」


 最近の話題についていけないのは俗世に疎いからだろうか?

 はたまた、俺ももうおっさんなのか?


「ソイツは、金持ち家族からだけ金目の物を盗んで、貧乏人に配る義賊っすよ!」

「義賊……この週末に、盗むっていう予告だな。だが、わざわざ予告する奴がいるか? 模倣犯のイタズラだろ?」

「いえ、予告するのが奴の流儀なんす」

「すぐ隣の属領国の宝物庫を狙うらしいな。まぁ、この国のことじゃないなら、俺たちの出る幕はないか」


 最近は色々と物騒なことが多いなぁ。

 こうして、今日も1日が終わろうとしている。

 日は沈みかけ、辺りが紅く染めあげられる。


「綺麗っすね」

「あぁ、そうだな。平和だ」


 このまま平和のまま続いて欲しい。

 そう願ってる。

 だが、それにしても……

 紅く染まる巨大な太陽でさえ美しいと思うのに、どうして姫さんの小さな目玉の紅い輝きは不気味に思えるのだろうか?

 こうして、俺たちは紅い大地に立ち尽くしていたのだった。

 これから起こる波乱を知る事もなく……

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