第4話 僕にはやっぱり無理


 約一時間、全員が無事に転職することができた。

 朝陽くんが剣士(フェンサー)。立派な剣と鎧を持つ、ザ・主人公みたいな格好だ。男前な顔も助長され、ゲームの中の登場人物のように錯覚してしまう。似合っている。似合いすぎている。

「脅威があったらできるだけ排除したい。みんなを危険から救いたいと願ったらこうなった」

 転職理由もめちゃくちゃ男前だった。「フルートが吹きたい」とか思って転職した僕とは大違いすぎる。朝陽くんと自分を比較すると惨めな気持ちになるのでやめよう。うん、そうしよう。

 真琴くんは騎士(ナイト)だ。ゴツゴツした大きくて派手な鎧と厚い盾が特徴的だ。

「俺はいつもゲームやるとき盾役だから。体型もそれっぽいだろ?」

 ジョークで場を和ませる真琴くんは本当に癒しだ。がっしりとした体格を生かし、僕たちを完璧に守り抜いてくれることだろう。朝陽くんもそうだけれど、真琴くんもよく似合っている。めちゃくちゃ勇者パーティー感が出ていて、ゲーム好きな男子ならばみんなワクワクしてしまう。いいなあ、僕も鎧とか着てみたかったなあ。非力な僕が戦うのはかなり難しいけれど。

 前の二人が似合った職業なのに対し、國春くんは意外にも盗賊(シーフ)だった。紫色のマントを羽織っているだけの身軽な格好で、鋭い短剣を武器として携えている。

「なんで俺は盗賊なんだよ…。顔か?」

 本人もすごく不満そうだ。たしかに顔は怖いけれど、國春くんはすごく優しくていい人なのに。

「はっはっは。お似合いだよ、火岡くん」

 國春くんを嘲笑する蒼矢くんは魔法使い(ウィザード)だ。金色の派手なローブをひらひらさせている。木製のくねくね曲がった杖は魔法使いのトレードマークだろう。

 無口な練磨くんは暗殺者(アサシン)だ。顔をすっぽりと覆い隠してしまう黒いパーカーを身に纏っている。武器は特に持っていないが、マントの裏にびっしり暗殺道具が仕込まれていそうだ。一番中学二年生男子の心をくすぐる格好をしている。正直かっこいい。

「こんな格好恥ずかしいです…」

 恥ずかしがる姿がかわいいノアちゃんは聖職者(クレリック)だ。水色と金色のラインが入った白いローブが様になっている。胸元のオレンジ色の石がついたネックレスが綺麗だ。露出は少ないが、身体のラインがくっきりするタイトな衣装に、僕たちは興奮を抑えきれなかった。

「そ、そんな、じろじろ見ちゃダメです…!」

 困り顔のノアちゃんは一層かわいい。ついついもっと意地悪したくなってしまう。いや、いかん、いかん、朝陽くんが殺意を放ってきた。こらえよう。

「これでとりあえず転職は終わったけれど、技の使い方がわからないよな。よし、唯人! どうにかしてくれ!」

「ええ! なんで僕!?」

「さっきお前が一番初めに転職したからな。お前が一番こういうことに詳しいと思って」

 無茶を言う國春くん。だが、明らかに僕が戦闘要員の職業じゃない以上、こんなとき役に立たないといけないような気がしてきた。

「お前、無茶させるなよ。唯人がかわいそうだ」

 朝陽くんが咄嗟に庇ってくれたが、僕は「大丈夫」と首を振った。

 そうだ、逆に考えればこれはチャンスだ。せっかくこんな異世界へやってきたんだから、ノアちゃんにかっこいいところを見せて、しっかりアピールしなくては。大学生活はたしかに楽しかったし充実してはいたけれど、ノアちゃんと両思いになれるかと聞かれればそれは確実に無理だった。

「わかった。ちょっと考えてみるよ」

 僕はフルートを構えた。これが出てきたということは僕の武器はこのフルートなのだ。とりあえず演奏してみよう。音楽学科の本気を見せてやる。

“どの曲を演奏しますか?”

 お、さっそく頭に機械音声が流れた。僕の予想は当たっていたか。

▽練習曲(エチュード)Aを演奏しますか?

 練習曲(エチュード)A? 僕が今弾ける曲はこの一曲だけなのだろうか? 随分弱そうだが…。

 まあいいや、初めはこんなものだろう。これから先冒険していけばもっと強い曲が弾けるようになるはず。効果は一体どんなものなんだろう?

▽味方全員の攻撃力と防御力と魔力とスピードと集中力と運を最大限まで強化し、毎ターン継続回復を付与する。

 おお、なるほどね。僕は味方にバフを付与するバッファーなのか。吟遊詩人なんて何をするのか全くわからなかったが、とりあえずパーティにおいて使えそうな役割であることが判明してよかった。

 ……………………。

 いや、強くね?

 冗談だろ、いくらなんでもこれは強すぎる。この世界の仕組みがわからない僕でもおかしいと思う。僕たちゲームの世界に迷い込んだにしても、まだチュートリアルの場面じゃん?

「どうしたの?」

 固まる僕に真琴くんが首を傾げる。

「あ、いや、えっと…」

 僕が事情を話すと、全員スキルの確認を行った。

 その結果、僕たちは全員が最強であることが判明したのだ。

 そして、僕のバフが必要ないレベルの強さだったことも判明した。ノアちゃんにかっこいいところを見せたいと思った矢先にこれだ。

 異世界に来たところでかっこいい奴はかっこいいし、かっこ悪い奴はかっこ悪い。やっぱり現実はゲームやアニメとは程遠いのだ。異世界1日目にして、僕は色々と悟ってしまった。

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