第10話

「大地の乙女様。

 王妃殿下がどうしても内々で相談したいことがあると御呼びでございます」


 王宮に呼び出された翌日に、王妃殿下から会いたいと使者が来ました。

 罠の可能性が高いのは分かっていました。

 避ける事など簡単です。

 ですが、敢えて罠に嵌ります。

 嵌って王妃殿下と一味を処罰します。


 正しいと言い切れる行いではありません。

 嵌め手です。

 ですが恣意で精霊の力を使うわけにはいきません。

 悪い事をした者にだけ、天罰は下されなければいけないのです。

 だから、罠と分かっていてついていきます。


「ほぉーほっほっほぉー。

 大地の乙女と言っても、頭は悪いのね!

 こんな見え透いた罠に嵌るなんてね!」


 馬鹿です。

 馬鹿がいます。

 ガゼボの上に乗った令嬢が高笑いしています。

 この馬鹿が黒幕の手先なのでしょう。


「さあ、糞まみれになりなさい!」


 王宮の下働きの者達でしょう。

 糞尿の樽を抱えた者達が、一斉に糞尿を私にかけようとしました。

 本当に馬鹿です。

 昨日の現場にいなかったのでしょうか?

 このような行いが、精霊の怒りを買うと理解できないのでしょうか?


 私が何の指示も出さないうちから、精霊は風を盾として使い、糞尿を一切近づけませんでした。

 独特の臭気すら漂ってきません。

 糞尿は私達を襲った者達に向かって叩きつけられました。


「ギャァァァァぁぁ!」


 馬鹿令嬢も下働きの者達も、皆糞尿塗れです。

 精霊が防いでくれているのに、独特の強烈な臭気が漂ってきている気がします。


「さぁ!

 一緒に国王に会って証言してもらいましょう。

 それともこの場で精霊様の怒りを受けますか?

 私はどちらでも構いませんが、楽に死ねると思わない事です。

 汚辱に塗れ、激痛に苛まれて、死ぬに死ねない苦しみを味合うことになりますよ」


 令嬢は糞尿塗れになりながら、それでも顔を左右に振って拒否しています。

 ああ、今分かりました。

 このような下劣な行為に出たのは、昨日の仕返しだったのですね。

 矢張り昨日王太子と一緒にいたのです。

 あの時脱糞失禁して恥をかいたのがよほど悔しかったのですね。


 下働きの者達に反抗する気力はないようです。

 糞尿塗れになりながら、地面に頭を擦り付けて詫びています。

 彼らに大した罪はないでしょう。

 馬鹿令嬢と王妃に命令されて仕方なくやった事でしょう。


「さあ、お前達。

 誰に命令されてやったか言いなさい。

 言わないとこの場で殺しますよ!」


「王妃殿下とアリアナ様でございます。

 王妃殿下とアリアナ様が、貴女様に糞尿をかけた後で殺せと言われたのです。

 知らなかったのです。

 本当に大地の乙女様とは知らなかったのです。

 信じてください!」

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