第9話

「王太子との婚約は、私から解消を申し込み、陛下が認める形としてください。

 それと民が神殿に寄進してくれた浄財を貪る、王家の息がかかった卑しい神官や巫女は、王国で引きとって頂きます」


 私はキッパリと言い切った。

 大地の乙女として、大地神殿に有利な条件を引き出さなければいけない。

 王家王国が失敗を犯した今こそ、強く出なければいけない。

 国王もただではひかないだろうが、精霊様の実力を眼のあたりにして、恐れの方が先だっているはずだ。


「それは……

 先ほども申したが、王家と大地の乙女殿の不仲は隣国の侵攻を呼んでしまう。

 神官や巫女も、王家が無理矢理働きかけた訳ではない。

 神官や巫女から王家におもねってきたのだ。

 神殿の堕落まで王家の責任にされては困る」


 確かに神官や巫女の堕落は、神殿に責任がある事です。

 それは私にも分かっているのです。

 長い平和と繁栄で、人々が精霊様への感謝を忘れている。

 このままでは、人族と精霊様は決定的な決裂をしてしまう。

 精霊様の個人への愛情は引き続き有り得るだろうが、人族全体に対しては怒りの牙を剥き出しにされるかもしれない。


「まだ分からないの。

 精霊様の人族への不満と怒りは限界なのよ。

 特に王家に対する苛立ちは、私にも抑えようがないわ。

 初代様の付き人であったからこそ、精霊様は王家を名乗る事を許されたのよ。

 それを忘れて大地の乙女を蔑ろにして、生きていけると思うほど馬鹿なの?」


 怒ったようね。

 国王として、普段は阿諛追従だけを耳にいているから、私の言葉を聞けば腹が立つでしょう。

 でもこれが真実。

 この言葉を腹におさめ、今迄の行動を悔い改めなければ、王家に明日はないわ。


「少し待ってくれないか。

 国王とは言え、全てを独断で決められるわけではない。

 貴族士族はもちろん、民も精霊様への畏れや敬いが少なくなっているのだ。

 いや、今でも敬虔に精霊様を敬っている者がいないとは言わない。

 だが確実に減っているのだ。

 その状態で、王家が低姿勢過ぎるわけにはいかないのだ!」


 時間稼ぎと条件闘争の言い訳なのは分かっています。

 ですが全くの嘘と言う訳でもありません。

 クロエとカミラも悔しそうにしていますが、眼の奥に諦めの気持ちも見えます。

 確かに貴族士族は言うに及ばず、民にも精霊様の御力を見せつける必要があるかもしれません。


「分かったわ。

 しばらく時間をあげましょう。

 ですが条件は変えません。

 この条件を達成する準備をしなさい」


「分かった。

 できる限り努力しよう」


 時間をかけて私を説得する心算でしょうが、王太子が馬鹿してくれそうですね。

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