第8話

 アリアナは王太子が半殺しにされた事で焦っていた。

 王太子を唆したのがばれたら、大地の乙女に報復されると思ったからだ。

 王太子を魅了した碧眼が不安に曇り、輝くような金髪も激しく乱れていた。

 欲望のおもむくままに、王太子と一緒に大地の乙女を罠に嵌めようとし、無様に死ぬところを見ようとしていたのだ。


 それが失敗し、王太子が生死の淵を彷徨っているので、自分で何とか起死回生の一手を考えているのだが、欲望は人一倍あるものの知恵がないので、よい手段が浮かばず破れかぶれの手段に走ってしまった。


「国王陛下の御指示で、王太子殿下を治す秘薬を取りに来ました。

 ここを通してください」


 アリアナは王家の地下秘宝室を護る近衛兵に話しかけたが、王家が持つ宝を保管している秘宝室を護る近衛兵は、特に厳選された将兵で編成されており、アリアナの嘘に騙されるほど愚かではなかった。


「国王陛下の命であるならば、その証を御持ちのはず、それを示して下さい。

 それがないようなら、陛下を御名をかたり秘宝を盗もうとした大罪人!

 この場で逮捕する!」


 十人の近衛騎士を指揮する近衛騎士長が、相手が子爵令嬢であろうと容赦せず、荒々しく押さえつけようとした。


「御待ちなさい。

 勝手に陛下の御名を使ったのは重大な罪ですが、それも全てネイサンを心配しての事なのです。

 ここは許してやってください。

 御願いします。

 この通りです」


 王妃殿下が軽く頭を下げるのを見た近衛騎士は、内心苦々しく思いながらも、不承不承アリアナ嬢を解放した。

 近衛兵達は、子爵令嬢の登場から逮捕の大事件、それを王妃が権力で解放させると言う急転直下の成り行きに平静を失い、直立不動のまま眼だけキョロキョロさせていた。


「それでね、騎士長。

 ネイサンの事は聞いているわね?

 ネイサンを助けるためには、どうしても王家に伝わる秘薬が必要なの。

 今度は私が命令するわ。

 ここを通してください」


「しかしながら王妃殿下。

 ここから先は、国王陛下の許可がない者は、例え王妃殿下でも入ることが許されない、最重要の場所なのです」


「分かっているわ。

 分かっていて騎士長に御願いしているのよ。

 確かに私の願いを聞いてここを通したら、騎士長は陛下に処分されるでしょう。

 ですが、ここは子を想う母心に免じて、見て見ぬ振りをしてちょうだい。

 御願い、この通りよ」


 王妃は再び軽く頭を下げつつ、両手で騎士長の手を握り、一般には流通していない、高額決済用の白金貨を五枚も握らせた。


「それに陛下も、子を想う母心は分かってくださるし、私に逆らえなかった騎士長の事も分かってくださるは」

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