第3話

「きゃぁぁぁぁ」


 少しわざとらしいですが、嘘の悲鳴をあげて落とし穴に落ちてあげました。

 クロエとカミラは苦笑いしているかもしれませんね。

 私もやっていて少し恥ずかしいです。


「おお、乙女!

 何とした事だ!

 このような場所に穴が開いているなんて⁉

 何と言う偶然だ!」


 馬鹿な男です。

 大地の乙女を落とし穴に落とせると思っているのですから。

 精霊の加護がある乙女を、大地が傷つける事などないのです。

 ですが王太子も少しは知恵があるようです。

 深く掘った落とし穴の底に、大石を置いているんですから。


 ですが芝居は下手ですね。

 言い訳が棒読みです。

 これでは誰も信じはしないでしょう。

 予定通りです。


「大地の乙女様!

 おのれネイサン!

 私は見たぞ!

 お前が大地の乙女様を落とし穴に突き落としたのを!

 この場で叩き殺してやる!」


 クロエが怒り狂っているようです。

 私の芝居だと気がつかなかったのですね。

 カミラも静かに怒っている気配が感じられます。

 このまま放っておいたら、血生臭い修羅場になってしまいます。

 ずっとこの温かく包み込んでくれる母なる大地の中にいたい気もしますが、それでは無用の血が流れてしまいます。


「大丈夫ですよ、クロエ、カミラ。

 私は大地の乙女ですよ。

 土精霊様が私を傷つけたりはしません。

 だから安心しなさい。

 無用の怪我人をだしてはいけませんよ」


 私の言葉は、精霊が何処までも伝えてくれますから、どれほど遠くにいようと、大地の底にいようと、気にせず話しかける事ができます。


「ですが大地の乙女様。

 王太子が大地の乙女様を落とし穴に突き落としたのを、私は確かに見たのです」


「私も見ました。

 これで証人は二人です。

 突き落とされた大地の乙女様も含めれば、三人もの証人がいます。

 これで言い逃れは不可能だと思います。

 民に知らせれば、王家打倒も可能ではありませんか」


 あれ、あれ。

 カミラまで過激になっています。

 これは誤算ですね。

 それとも、冷静に考えて王家打倒が可能と考えているのでしょうか?

 私はそこまでやる気はないのですが。


「余は知らん。

 大地の乙女がどんくさいから勝手に落ちたのだ。

 余が突き落としたわけではない。

 罪を捏造すると言うのなら、偽証罪で逮捕してくれる!

 者共、さっさとこの二人を捕らえるのだ!」


 そろそろ出て行った方がいいですね。

 王家の家臣の中にも、仕方なく王太子の命に従っている者もいるでしょう。

 そんな者まで巻き込んでは可哀想です。

 ですが、王太子に媚び諂って権力を手に入れ、弱い人達を虐めていた者もいる事でしょう。


 少し脅かしておいた方がいいですね!


「ぎゃぁぁぁぁ!

 何だ⁈

 何事だ!

 やめろ、止めてくれ!

 許せ、許してくれ!

 もうやらぬ、もう二度とやらないから許してくれ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る