第2話
「待ちなさい、クロエ。
事を荒立ててはいけません。
殿下が私の事を確かめたいと申されるのでしたら、確かめて頂きましょう。
それで殿下、私は何をして身の証を立てればいいのですか?」
私には、幼い頃から側近く仕えてくれる侍女が二人います。
今私をかばってくれたクロエと、後ろを護ってくれているカミラです。
良識派が頑張ってくれて、二人を側仕えとして同行させてくれたのです。
神殿内では、戦巫女として私を護ってくれていた二人です。
王家の騎士が相手でも後れを取ったりはしません。
「ほう。
殊勝だな。
だったらついて来てもらおうか。
お前達はついて来るな!
余も護衛を遠ざける。
婚約者同士二人きりにさせてもらおう」
「しかし!」
「御待ちなさい、クロエ。
殿下が二人で話したいと申されるのなら、御一緒します。
私の事は二人が一番知ってくれているでしょう」
「しかし、大地の乙女様」
「待つのよ、クロエ。
大地の乙女様がそう仰られるのです。
信じて待ちましょう」
「だが、カミラ……」
クロエも私の事を信じてくれているのですが、少々心配性なのです。
カミラも心配しているのですが、態度に出さないだけです。
その証拠に、いつでも戦えるように重心をおいています。
ですがそんな心配はいりません。
私だって大地の乙女です。
世間では大地の乙女を祈るだけの存在だと思っているでしょう。
ですがそれは間違いです。
初代様は戦乱の世を歩き回り、雑草も生えない荒れ地に踏み込まれ、精霊様と交信し、大地母神様に願いを聞き届けて頂いた方なのです。
歴戦の戦士でなければ、戦乱の世を歩いて救世など不可能なのです。
大地神殿でも、大地の乙女の側近くに仕える戦巫女や奥巫女だけが知る事ですが、代々の大地の乙女も武闘術を学んでいたのです。
何の鍛錬もしていない、みっともない足さばきの王太子殿下が何を企もうとも、自力で対処して見せます。
「ふ、ふ、ふ、ふ。
ここまでくれば、あの二人も邪魔できまい。
土臭い女など余には不釣り合いなのだ。
サッサと死ぬがいい!」
おっと!
そのような無様な体裁きで、私を突き飛ばそうと言うのですか?
馬鹿はどこまで行っても馬鹿ですね。
向こうには落とし穴が掘られているようですね。
このまま突き飛ばしをかわして、殿下を落して差し上げましょうか?
ですがそれでは、殿下の悪辣さが消えてしまいますね。
素直に突き飛ばされて、私が落とし穴に落ちてケガすれば、殿下に重い罪を着せることが可能ですね。
まあ、どうせ、自分は突き飛ばしていないと嘘をつくでしょうし、落とし穴も偶然の産物だと言い逃れるでしょうが、多くの人が殿下に疑念を持つ事になるでしょう。
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