第5話

真里は掃除の時も、断らなければ良かったと後悔していた。

「なんで、断っちゃったんだろ、、、」

ようやく掃除が終わり、帰り支度を終わらせてとぼとぼ帰ろうとした時、校門のところで後ろから声をかけられた。

「おい、先帰ってんじゃねーよ」

振り向くと、そこにいたのは山神くんだった。

「え?」

「ほら、帰ろうぜ」

もしかして、待っててくれてたのかな、、?

「オマエさ、バスはやっぱ山里の隣が良いわけ?」

いきなり何かと思ったら、明日のバス席決めの話みたいだ。バス席は、行動班と決まっているから。

「う、うん、、、いずみが隣でいてくれたら嬉しいと思うよ。でも、、、」

高望みとは思うけど山神くんの隣がいいな。

そんな事、言える訳ない。

「でも、なに?」

優しく促す山神くん。でもそんな図々しいこと言うわけない。

「ん、いいや、山神くんは、、、?」

「オレ?オレは、別に誰でも良いよ」

そっか、山神くんは私と隣になりたいなんて思ってないよね。やっぱり面と向かって言われると悲しい。いずや、なるみちゃんと同じにしか思われてないんだなぁって考えちゃうから。

「山神くんみたいな人がいたら決めやすいよね!」

「そうか?別に本心だけど、、、」

「、、、」

もう本心とまで言われて、私は本気で心が折れそうになる。沢山失恋していても、この痛みに慣れるなんてことはないみたいだ。

「でも、さ。」

「何?」

「オレが自由に決められるとしたら、隣になりたいなって人はいるけどね。」

「どうせ、雷都くんか晴人くんでしょ?」

「違うよ、ってかオマエ、雷都とか晴人のことそんな風に呼んでんの?」

「う、うん、、、」

雷都くんや晴人くんは優しくて、こういうと申し訳ないけど山神くんと違って意識してないから本人たちの希望もあって名前にくん付けで呼んでいた。

「なぁ、オマエ雷都とか晴人は名前呼びでオレは苗字だけど、それなんか意味あんの?」

「え?!」

そんなこと、考えなかった。だって山神くんは特別だし、名前呼びなんて出来ないもん。

「あのさ、他の男子はなんて呼んでる?」

他の男子は基本苗字にくん付けだ。でも、これを正直に言って良いのかな?私は正答例が分からず素直に答えた。

「苗字に、くん付けだよ、、、。でも、雷都くんとか晴人くんは仲が良いから、、、」

フォローしてみたつもりだけど、ますます山神くんは仲良くないみたいな言い方になってしまった。

「オレとは仲良くないって事?」

山神くんはイライラしているようだ。ごめんね。嫌いじゃないの。むしろ逆。好きなんだよ。好きすぎて呼べないだけなの。ほんと嫌な気持ちにになっちゃったよね。ごめん、、

「違うよ!」

思ったより大きな声で言ってしまった。今の私、結構泣きそうな顔になってるはずだ。山神くんが驚いている。やばい。

「違うって?」

「山神くんは、、、」

「オレは、何?」

睨まれ、ほんとに悲しくなる。思わず本音が漏れる。

「山神くんは、ほんとに、、、むり」

「え、、、」

あーぁ。終わった。嫌いって思われたよね。

山神くんはさらに表情を険しくさせた。

「なんで俺はムリなの??晴人達と何が違うわけ??」

、、、かっこよさとか好感度とか???そう言う感じです。そんなことは言えないけど、素直に言うしか道はない気がする。何も言わない私に、山神くんは更に言った。

「俺のこと嫌いで苗字で呼んでるわけ?」

「違うよ!!」

本日二度目の大きな声。あーなんか変な人だと思われる確率100パーセントなんですけど。もうこの恋終わったわ。

「信じて良いんだよな?別に遠慮する必要ねーぞ?ここで正直に言わないとこの先お前苦労すると思うが大丈夫か?」

苦労、、、なんの話かな??とりあえず私は頷いた。

「俺はお前のこと、、、嫌いじゃないから。お前に嫌われてたら悲しい」

私は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「嫌いじゃないよ。山神くんのことは良い人だと思ってるし」

結構告白っぽいこと言っちゃったかな??私。失恋するんだったら良いかなって思って言っちゃったけど。

「じゃあなんで苗字なの?」

、、、ぐっ。それはやっぱり避けて通れないわけですね。

「山神くんは。」

「うん」

私は当たって砕けろ精神で言った。

「サッカー部でスタメンでかっこよくて人気者でなんだか私の中でキラキラしてて、だから名前呼びってハードル高くて。ごめんね」

恐る恐る山神くんを見る。山神くんは真っ赤になっていた。照れてるの?照れなくて良いんだよ、本当のことなんだから。私は心の中で呼びかける。

「俺別にキラキラしてねぇし。そんな理由なら俺のこと名前呼びしろ」

ええ?ムリです。はい。私は断ろうと口を開く。すると山神くんに口を押さえられてしまった。いきなりのことに軽くパニックになる私。

「反論は一切認めないから。俺の命令だから。嫌なら良いけど、、、嫌われてるって思って悲しくなる」

逃げ道を塞がれた、、、それ反則だから!私は口を閉じて頷くしかなかった。

「よかった、、、でも、嫌いならムリしなくて全然大丈夫だから覚えとけよ真里」

「うん、、、って!!!」

さりげなく真里って呼ばれ、私はドギマギしてしまう。

「なに、そんな顔真っ赤にして、、、男にそんな顔見せちゃダメだろ」

私を狙う人なんていないから大丈夫だよ。

「まったく、、、送ってくからな」

「え、、、あ、ありがとう」

こういうのは断っちゃいけないんだよね?それがマナーなはずだ。


結局、山神くん、じゃなくてりょうたに家の近くまで送ってもらっちゃってとっても楽しい時間になった。

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