2063/05/10 Sat.(3)

 朝食中も陸は書き込みへの返事をどうするか悩んでいた。同時に自分の過去について何かつかめそうでつかめない現状にもどかしさを感じていた。


「『あなたは誰ですか?私のことを何か知っています?』

じゃ、さすがにまずいかな」


自分のセンスのなさに呆れる陸。タブレットとにらめっこしながら、一人悪戦苦闘していると、病室のドアが開く音がカーテンの向こう側から聞こえた。


「おはようございます。陸くん。朝のバイタルチェックです」


添田が病室に入ってきた。朝だからだろうか、声に張りがあり表情も昨日より格段に明るい。


「おはよう、添田さん。そう言えばさ、昨日した話覚えてる?」


「ええ、もちろんよ。出会い系の話でしょ。それがどうかしたの?」


添田はすぐに問い返した。添田も興味があるようで、声のトーンが少し上がったのが分かった。


陸は、「あの後、結局、掲示板を覗いたんだけど・・・」


と今朝の経緯を説明した後、


「こういう場合って、どう返事をすればいいんだろう」


先ほど考えた文章を添田に見せ、アドバイスを求めた。それを見た添田からは、


「ダメダメ、そんなんじゃ。陸くん、乙女の気持ちを全然分かっていないわね」


直ぐにダメ出しが飛んできた。それだけでは添田の勢いは止まらず、


「いい?こういう風に書くのよ。

『書き込みありがとう。私もあなたのことが気になっています。

良ければ友達から始めてもらえませんか?』

分かった?」


とまくし立てた。陸は心の中では古臭い言い回しだと思ったが、添田のあまりの迫力に押され、


「あっ、ありがとう、参考にするよ」


とアドバイスに同意するしかなかった。添田は陸の返事に満足したようで、体温と血圧を測り終えると、そそくさと病室を後にした。陸は掲示板にログインすると、添田のアドバイス通りに文章を打ち込み、返信を待つことにした。

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