2063/05/10 Sat.(4)
昼過ぎに雨は上がったようで、朝方から聞こえていた雨音はいつの間にか消え、心なしか病室も明るくなっていた。
昼食を取った後、陸は眠い目を擦りながら、タブレットで掲示板について調べていた。しかし、どう検索しても『サンセットSNS掲示板』というキーワードはヒットしなかった。唯一、VR内にある『サンセットカフェ』という個人経営のカフェが検索結果に出てきたが、掲示板とは関係はなさそうだった。なかなか思うような結果が得られず、一旦、休憩しようとタブレットを枕元にほうり投げた。その時、「ファン」というタブレットの甲高いメール受信音が静かな病室に響いた。急いでタブレットを手に取り、メールを確認する陸。メールは掲示板からで文面は昨日と同じ、定型文のようだった。リンクから掲示板に飛ぶと、新しいメッセージが表示された。
2063/05/10-13:48
『咲良です。連絡くれてありがとう。嬉しかったです。私も陸くんと友達になれるといいなー良ければ一度、会ってみませんか?VRの中とかでも大丈夫です』
咲良からの予想外の誘いに陸は戸惑った。実際に会おうという考えは陸の頭の中には全くなかった。それは自分が障害者という負い目があったからだ。だが、障害者であることを隠せるVRの中でなら、陸に断る理由はなかった。
「まーVRの中ならいいっか。もし騙されているとしてもVRだし」
と自分で自分の背中を押すように呟いた。そして、咲良への返事を考え、タブレットに打ち込む。
『誘ってくれてありがとうございます。いつも私は加地海浜公園を利用しているので、来週の土曜日の13:00に噴水広場で待ち合わせしませんか?』
添田のアドバイスを参考にして書いてみたものの、相変わらずの他人行儀な文章に陸は苦笑した。しかも、『VR内で』と書き忘れていたことに気付き、陸は一旦書き直そうと画面上の『戻る』ボタンを押した・・・つもりだったが、タブレットの画面には、
『掲示板への投稿が完了しました』
という文章が表示されていた。
2063/05/10-14:05
『誘ってくれてありがとうございます。いつも私は加地海浜公園を利用しているので、 来週の土曜日の13:00に噴水広場で待ち合わせしませんか?』
「あっ、やばっ、決定押してしまった」
陸は頭を抱えたが、すぐに、
「でも、まー加地公園なら大丈夫か」
と開き直った。VR自体のコンセプトテーマは『20年後の未来』で、エンターテイメント性が高いものになっており、とりわけ加地海浜公園はVR内に存在する架空公園の中で抜群の人気と知名度を誇っていた。
自分らしい文章に、らしくない大胆な内容。書き込みを見ながら、陸には掲示板にひとり悪戦苦闘する自分がおかしく思えた。咲良からの返事はすぐに来た。
2063/05/10-14:30
『陸くん、OKです!!楽しみにしてます』
陸は過去の記憶よりも『咲良』という掲示板の向こう側の女性に興味が移りつつあることを感じていた。
「来週かぁ」
と誰にも聞こえないような小さい声で呟いた。
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