2063/05/09 Fri.(3)
病室は4人部屋でカーテンで4つに区切られている。その一つ、2×3メートル程が陸の生活スペースだった。中央には通路があり、天井には空調とLED照明が設置されている。LEDの白色光がクリーム色のカーテンに反射し、黄みがかって見える病室の白壁。年中空調が入っており、窓には常にカーテンがされているので、季節感どころか、長くいると時間の感覚すらなくなってしまう。そんな無機質な空間の中で、陸の気晴らしといえば、週一回のVRとタブレット端末でのネットサーフィンだった。
陸は看護師が出ていくとすぐに身を乗り出してベットの右側に置かれたテーブル上のタブレットに手を伸ばした。その時、タブレットの受信ランプが青く点滅しているのが目に留まった。タブレットを手に取り画面をタップすると、
『新着メールが2件あります』
という青白く光る文字が。訝しげな表情で画面上のメールのアイコンをタップする陸。一件目はVRサーバーの年次メンテナンスの案内だった。画面上の『次へ』をタップすると即座に二件目のメールが表示された。
「サンセットSNS掲示板?なんだこれ」
身に覚えのないメールに陸は戸惑いを覚えた。
『新しい書き込みが1件あります。掲示板にログインの上、
24時間以内にご確認お願いします。サンセットSNS掲示板』
「これってログインした途端、お金取られたりして」
と冗談交じりの独り言が思わず出てしまった。普段からよくインターネットを利用するとはいえ、専らニュースを見るか、調べものをするだけの陸にとってこのリアクションは無理もなかった。陸がタブレットの画面とにらめっこしていると、ドアのノック音が病室内に響き、正面のカーテンが揺れた。
「お待たせ。それにしても暑いわね。少し走っただけなのに。もう更年期かしら。とりあえず体温と血圧測るね」
カーテンの向こうには、先ほど出ていった看護師が立っていた。
「ねー添田さん、これどう思う?」
陸はメールをタイミング良くやって来た看護師の添田に見せた。差し出されたタブレットを見て添田は、
「怪しい・・・これは怪しいわよ」
と陸の予想していた通りの返事をした後、
「でも、これって私が若い頃に流行ってた、出会い系掲示板みたいね。最近またブームが来ているのかしら?今と違って、すぐに連絡が取れない所が良かったのよねーじらされてるみたいで。ふふふ」
と若かりし頃を懐かしむように続けた。身寄りのいない陸は「出会い」という響きに人一倍好奇心を掻き立てられたが、
「ありがとう、やっぱり、添田さんの言う通り、怪しいからやめとくよ」
と言うと、一旦その好奇心を胸の奥にしまった。添田は、
「それがいいわよ。でも、もしやる時は言って。ノウハウあるからアドバイスしてあげるわ。え~っと、体温は36.5℃、大丈夫ね」
と言い残して、病室を出て行った。陸はタブレットをテーブルの上に置くと、 ベットに横になり、天井を見上げた。日中のVRで疲れたのだろうか、直ぐに睡魔が襲ってきた。
「出会いかぁ」
微睡む意識の中においても、メールのことが脳裏から離れなかった
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