2063/05/09 Fri.(2)

 目を開けると、それまで見えていた鮮やかな景色は消え、味気ない白い天井に変わっていた。陸にはそれが新品のキャンバスのように見え、描きかけの絵を途中で消されたような錯覚に陥っていた。ただ、VR後のそうした虚脱感や喪失感は毎度のことであり、陸はそうしたマイナス面を補って有り余る程の魅力をVRに感じていた。


 陸がいつものようにVRの余韻に浸っていると、


「あら、陸くん、帰ってきてたのね、おかえりなさい」


女性の高い声が病室の入口の方から聞こえた。その声色からはだいぶ若い印象を受ける。声の方に目をやると、カーテンの隙間から黒縁メガネをかけた小太りの看護師が陸の方に手を振っていた。歳は50代くらい。


「ただいま。あんまり帰ってきたくはなかったけど。やっぱり、三時間はちょっと短いよね。せめて倍、あればなぁ」


陸が少し拗ねた感じで返事すると、


「どうにかしてあげたいけど、お上が決めたことだからねーうちらにはどうしようもね。あっ、そうだった!!ちょっと待ってて、夕方のバイタルチェックするから」


そう言うと看護師は小走りで病室を出ていった。

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