01.掲示板

2063/05/09Fri.(1)

――――VR内、加地海浜公園


 目を覚ますと公園のベンチに横たわっていた。あまりの陽射しの強さに、反射的に右手をかざしそれを遮ろうとする陸。その手の向こう側には、都会の高層ビル群と青い空。それらを樹々の緑が切り取り、まるで一枚の絵のように見える。陸はこの景色が好きだった。平日の昼間ということもあり人もまばらで、公園は静まり返っていた。時折り吹く海風が陸の顔を撫で、樹々を揺らす。その若葉が擦れる音が心地よく耳に響き、眠気に襲われる。


 勿体ないと思いつつも、そのまま目を閉じようとした時、ピピピッという、それまで浸っていた世界観にはそぐわない電子音が鳴り響いた。陸は仰向けのまま腕を持ち上げ、腕時計を視界に入れた。手首にはめたぼろぼろのミサンガがちょうど時計と重なり文字盤を隠していた。陸は腕を揺らしてそれを振り解き時計を確認した。


文字盤には時刻は表示されておらず、

02:55:03、4、5とストップウオッチが時を刻んでいる。


「もう時間かぁ」


陸は不満げな表情で呟くと、いつものように目をギュッと閉じた。すると、先ほどまで聞こえていた風の音は消え、徐々に意識が遠のいて行く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る